関節リウマチ・
リウマチ性疾患外来

関節リウマチ

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関節リウマチは、感染や痛風などの疾患がないにもかかわらず、長期間にわたり手足を中心に関節が痛みを伴って腫れる疾患です。
初期症状は手指のこわばりで、特に早朝起床時に多く、「朝のこわばり」などと表現されます。通常、左右対称に手指など小さい関節が腫れたり、痛くなったりすることが多いですが、足首や膝、肘・肩などの大きな関節に痛みや腫れがみられることもあり、初期には必ずしも左右対称に起こらないこともあります。

関節の構造と関節リウマチ

関節とは骨と骨のつなぎ目、連結部分のことです。
骨と骨が向かい合う部分は直接衝撃が加わらないように、表面が軟骨で覆われています。
さらに、その外側は関節包という袋によって覆われ、袋の内側にはちょうど皮膚の下に皮下組織や脂肪組織があるように、滑膜と呼ばれる組織があります。
この滑膜は軟骨や骨の末端に必要な栄養や酸素を供給する役割を担っています。
さらに、この関節包の外側には靱帯や腱といった固い組織があり、関節内の骨どうしがずれないように周囲から固定しています。

関節の構造と関節リウマチ

関節リウマチではこの滑膜組織が増殖してきます。
滑膜の増殖自体は変形性関節症や細菌が関節の中に入り込んで化膿してしまった場合などにも見られます。
変形性関節症による滑膜の増殖は変形した骨が直接滑膜にぶつかって、機械的な刺激によって生じますが、関節リウマチではこのような機械的な刺激や細菌感染が無いのに、勝手に腫れ上がり、炎症を起こしながら増殖してゆきます。
増殖した滑膜からは、関節液が大量に分泌され、この腫れた滑膜や液体貯留により関節包が膨れ上がり、関節痛や関節の腫れの原因です。

関節リウマチの発症年齢

「リウマチ」と聞くと高齢者のイメージがありますが、関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis)という疾患は20〜50代くらいの比較的若い女性に起こります。
男女比は1:3くらいで女性に多いのが特徴です。
中には小中学生くらいの若年者にも起こることがあり、こちらは通常の関節リウマチと同様の症状を示すこともありますが、発熱などの全身性の炎症を来す場合もあり、大人の関節リウマチと区別して特発性若年性関節炎(JIA)と呼ばれます(後述)。
また、60〜65歳を超える高齢者に発生することもあり、こちらも通常の関節リウマチと違って、肩や膝など大きな関節に発症することが多く、男女比はほぼ1:1です。
後述する血液検査で異常を認めることが少なくしばしば診断に難渋する場合もあります。
高齢で発症する関節リウマチは特に区別して(Elderly Onset Rheumatoid Arthritis)EORAと呼ばれることもあります。

関節リウマチの症状・検査

  • 関節リウマチの症状
  • 関節リウマチの症状
関節リウマチの症状
  • 関節リウマチでは痛みのある関節が腫れて、押すと特にひどく痛みます。
  • 手をついて立ち上がろうとしたときに、手首に痛みが走ることもあります。
  • 関節痛は多発性で初期には、ある日は手首、ある日は膝などと移動性を認めます。
  • 早朝や起床時には関節が腫れるため、手指を中心にこわばりを感じることがあります。
  • 手足や肩などの関節のほかに顎関節などに疼痛を認める場合もあります。
  • 肩の関節が冒されると、腕を持ち上げたり髪をとかす、シャンプーをするなどの動作が痛みのためにできなくなることがあります。
  • 手首の関節炎では机やテーブルに手をついて立ち上がろうとした際に手首に痛みを感じることがあります。
  • 関節痛は通常複数にわたることが多く、左右対称と言われますが必ずしもそうでないことがあります。
  • 早期には数日〜数週間の単位で様々な関節を移動する痛みがみられることがあります(移動性の関節炎)。

こうした関節リウマチの患者さんでは、血液検査を行うとCRPという炎症反応が上昇していることが多いです。
CRPは大きな関節に炎症を来すほど上昇が見られますので、手指のような小さな関節に炎症が限局している場合には、痛みが強くても必ずしもCRPが上昇しない場合もあります。
赤沈という炎症の強さを反映する検査も亢進します。
そのほか、慢性の炎症を反映して血小板は増加し、軽度の貧血を合併していることもあります。

関節リウマチに特に見られる特有の検査異常は抗環状シトルリン抗体(抗CCP抗体)です。他の関節炎では陽性を認めることがほとんどなく、関節リウマチで陽性となります。
さらに、典型的にはリウマチ因子と呼ばれるタンパク質も陽性となります。

  • 抗CCP抗体
  • 鑑別・除外すべき疾患

関節リウマチの予後

関節リウマチを治療しない場合、滑膜という関節包内にある増殖した滑膜は関節包の中に充満し、さらに骨に接した部分は骨を溶かして穴をあけてゆきます(骨びらんといいます)。また、増殖した滑膜からは軟骨を溶かす酵素(MMP-3)が盛んに分泌され、軟骨が徐々に薄くなってゆきます。
この結果、関節やそこに入る骨は正常な構造を保てなくなり、脱臼してしまいます。
進行した関節リウマチ患者さんの手指は尺側偏位といって、小指側に流れるように変形を来します。
この変化は手指だけにとどまらず、肘や肩、膝、足首など全身の関節にも見られるようになり、日常生活が著しく制限される結果となります。
日常の活動性が低下したり、寝たきりとなると感染症のリスクも高まります。
また、頸椎という首の骨にも変形を来すことがあり、時に脱臼を起こすことがあります。この場合には、中を通る神経が圧迫される恐れがあります。

関節リウマチの治療

以前は関節リウマチの治療は難しく、持続する疼痛に悩まされながら、関節が変形してゆく患者さんが多数おられました。
しかし、1980年代頃から関節リウマチに対して効果の高い免疫抑制薬が使用されるようになり、予後は劇的に改善してきています。
特に、最近では生物学的製剤とよばれる関節リウマチの炎症で見られる、関節で盛んに炎症を起こしている白血球が分泌する炎症を起こすサイトカインと呼ばれる炎症を惹起するタンパク質に特化した抗体製剤などが開発され、以前のような著しい変形を来す患者さんや、疼痛を長らく抱えて悩む患者さんの数はかなり減ってきています。

関節リウマチの治療には様々な薬があります。治療の前にもっとも重要なことは、まず、患者さんの状態を評価することです。

関節リウマチの治療

関節がどのくらいリウマチの影響をうけているか、壊れてしまっているか、その結果日常生活がどのくらい障害されているかなどがまず問題となります。
次に、治療するにあたって、どのくらい炎症の勢いがあるかを評価することが重要です。
何年も前に関節が破壊されてしまっていても、現在、炎症がほとんど無いということもあります。
このような場合、強過ぎるお薬を使っても関節は元通りという訳にはいきませんし、むしろ感染など副作用が前面に出てしまうということもあります。
逆に、発症したばかりの頃、関節はほとんど壊れていなくても炎症が強い場合もあります。

関節リウマチの治療
  • 関節リウマチの症状
  • 関節リウマチの症状

このような場合、放置しておくと短期間の間に関節が破壊されてしまうこともあります。
そこで、炎症の強さを図ることが重要となってきます。
炎症の強さは採血でCRPなどの炎症反応で測定することもできますが、手指などの小さな関節では必ずしも炎症の強さやご本人の痛みと炎症反応が相関しないことも珍しくありません。
そこで、痛みのある関節の数(とくに熟練した医師や看護師による圧痛のカウント)や腫れている関節の数や程度をみることで炎症を評価します。
臨床試験や研究では特に厳密に病気の勢い(疾患活動性といいます)を評価するためにいくつかの指標が示されています(コンポジット・メジャー)。
以下は米国リウマチ学会から示されている日常生活の障害の度合いを示したクラスです。

関節リウマチの治療

当院で行う関節リウマチの治療は薬物療法とリハビリテーションが主体です。
関節リウマチの炎症には免疫学的な異常が関連しているため、免疫抑制薬の投与が必要となる場合が多いです。
最も一般的に用いられる免疫抑制薬はメトトレキサート(リウマトレックス®)というお薬です。
およそ関節リウマチの患者さんの6-7割の患者さんが投与を受けています。週に1回の内服が原則で、内服薬では最も効果が期待される薬剤です。
内服を開始すると1-2ヶ月で効果が発現します。効果が発揮されると鎮痛薬などを内服する必要が無くなり患者さんもいます。
しかし、高齢や腎機能、肝機能に異常のある患者さんでは投与が難しい場合もあり、副作用を生じる場合もあるため、治療に際しては本剤の使用経験が豊富であり、副作用のチェック体制が整った医療機関で治療することが望ましいです(個々の薬剤の特徴については別項で述べます)。
当院では血液検査の異常(貧血・肝機能・腎機能の異常)をいち早く捉えるために迅速検査を実施しています。平均で7-15分で外来で結果を知ることができます。
また、レントゲン、CT検査など必要に応じて適宜行います。
疾患の増悪や重症な副作用が発現した際には連携医療機関や大学病院へ迅速に紹介する診療体制を構築しています。

関節リウマチの治療に用いる薬剤

以下に関節リウマチの治療に用いられるお薬を挙げます。これらの薬剤はいずれも当院で投与が可能です。
実際には、これらの薬は組み合わせで投与を行います。
一般的には抗リウマチ薬 [正式には疾患修飾性抗リウマチ薬:Disease Modifying Anti-Rheumatic Drugs; DMARDs(ディーマーズ)といいます]。
関節リウマチの治療ではこれらのお薬を単独、あるいはコンビネーションで使われます。

関節リウマチの治療に用いる薬剤

基本的に抗リウマチ薬は年余にわたり使用されることが多いので、有効性と体質にあったものを選ぶことが大切です。

従来から用いられている抗リウマチ薬(Conventional DMARDs)

1)メトトレキサート(リウマトレックス®)

葉酸代謝拮抗薬。関節リウマチ治療では主役となる抗リウマチ薬、アンカードラッグとも呼ばれています。
内服薬では最も効果があるとされ、週1回内服から開始され、通常週に1-2日、6〜16mg(1錠は2mg)で使用されます。

メレトトレキサート

1980年代から関節リウマチに用いられるようになり、現在はリウマチ治療の主役です。
本来、体内で葉酸という栄養素をブロックすることで効果を発揮します。
葉酸は関節の滑膜に入り込んで炎症を起こす白血球や白血球が分泌する炎症を惹起する物質を抑制する作用があります。
副作用として、最も重大なものは、間質性肺炎、肝機能障害、貧血・血球の減少(骨髄抑制と呼びます)などです。
また、葉酸は粘膜のメンテナンスにも関わるので、口内炎などを来すことがあります。
この様な副作用を防ぐことを目的に、本剤内服後葉酸を24-48時間後に1錠内服する場合があります。
過度な葉酸の内服は本剤の効果を弱くさせることがあるので、葉酸を大量に含む食品を取り過ぎない様にすることも重要です。

細胞内のMTX

また、腎機能が低下した患者さんでは、内服により血液中に蓄積され、副作用が出やすくなるおそれがあるため、減量や中止が必要です。
また、最近ではリンパ腫を発症することが希にあるため、定期的にチェックすることの重要性が注目されています。
もともと関節リウマチでは血液疾患の合併が多く、直接こうした血液の病気を惹起するわけではありませんが、発症には体質が影響していることが示されています。

MTX投与ができない症例
2)タクロリムス(プログラフ®)
タクロリムス(プログラフ®)

カルシニューリンという免疫に関わる細胞内の物質を抑制する作用のあるお薬です。
メトトレキサートが使用できない場合やメトトレキサートでも有効性が得られない場合に投与されることが多い薬剤です。
関節炎を抑える作用もありますが、ほかにも膠原病による腎炎や間質性肺炎に対して用いることもあります。
副作用としては、腎機能障害や肝機能障害、帯状疱疹や他の感染症にかかりやすくなる(易感染性)ことです。
もともと腎機能障害のある患者さんでは投与量を減らしたり中止したりすることが必要です。

3)レフルノミド(アラバ®)

プリン・ピリミジン代謝拮抗薬という種類のお薬です。
関節リウマチで用いられる免疫抑制薬の一つです。
効果はメトトレキサートに匹敵するとされますが、日本人では間質性肺炎を起こすとしたデータも多く、投与頻度はさほど多くありません。
投与に際しては間質性肺炎のモニタリングや肝機能障害をチェックすることが必要です。

4)サラゾスルファピリジン(アザルフィジン®)

1)〜3)が直接免疫に作用する薬剤であるのに対し、この薬剤はサルファ剤という抗生物質に由来するお薬です。
早期の関節リウマチに用いられることが多く関節リウマチの治療に単独で、あるいは他の薬剤との組み合わせで使用されます。
副作用としては肝機能障害とアレルギーによる発疹です。

5)ブシラミン(リマチル®)

非免疫抑制薬系の抗リウマチ薬で古くから本邦で用いられてきたお薬です。
現在は早期の関節リウマチに用いられることが多くなっていますが、時に単独投与で有効性を発揮する場合もあります。
副作用として蛋白尿が出現する患者さんが見られることがあり、放置するとネフローゼ症候群という大量蛋白尿を示す場合があります。

6)イグラチモド(ケアラム®)
イグラチモド(ケアラム®)

もともと消炎鎮痛剤を研究する過程で生成されたお薬です。
抗リウマチ薬として炎症を抑える効果や鎮痛に関わる作用もあります。
過度な免疫抑制を示すことが少ないため、比較的使いやすいお薬ですが、初期から多い量で使用することによって重い肝機能の異常をみせることがありますので、当院では少量から投与を開始し肝機能を見ながら治療を行っています。

7)その他のDMARDs

アクタリット(オークル®)やロベンザリット(カルフェニール®)などが古くは用いられています。
確かに有効な患者さんもいらっしゃいますが、近年の大規模試験では有効とするエビデンスが得られなかったこともあり、最近では使用頻度はかなり少なくなっています。

MTX以外の合成DMARDs

生物学的製剤

生物学的製剤とは長年の関節リウマチの免疫異常の研究の過程で、中心的な役割を果たす分子をバイオ技術によって、ピンポイントに抑える作用をもつお薬で、20年程前から使用されるようになってきたお薬です。
これら生物学的製剤は点滴か皮下投与など注射で使用されるお薬です。
タンパク質が主成分になっていますので、投与部位反応などのアレルギーがあること、過度な免疫抑制作用によって感染症にかかりやすくなること、お薬そのものが高額であることがデメリットとしてあげられますが、概して従来のお薬に比べて効果が高く、これらのお薬の開発によって関節リウマチの治療有効性ががらっと変わった(パラダイムシフトといいます)画期的なお薬です。

8)インフリキシマブ(レミケード®)
生物学的製剤

分子生物学的な方法で開発された最初のお薬で、関節リウマチの患者さんで血液中に分泌されるサイトカイン(白血球が分泌し、ホルモンの様に関節に炎症を起こす物質)のうちTNF-α(ティーエヌエフ・アルファ)という分子を標的にしたお薬です。
通常、人体にウイルスが感染すると抗体ができて、ウイルス除去に積極的に作用しますが、このお薬はTNF-αという分子に対して、作用する人工的に作られた抗体です。
メトトレキサートとともに使用する決まりになっていますが、この製剤を使用することによって効果を劇的に増強することが知られています。
点滴で投与するお薬で、通常2ヶ月に1回の投与で使用しますが、効果の弱い人手は、月に1回まで投与間隔を短縮することができます。

9)エタネルセプト(エンブレル®)

皮下注射で用いられる抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブの項参照)です。
インフリキシマブの次に開発されたお薬で、歴史も比較的古く実績もあります。週に1-2回の投与が必要で、自己注射可能なお薬です。
必ずしもメトトレキサートの併用は必要ありません。

10)アダリムマブ(ヒュミラ®)

皮下注射で用いられる抗TNF-α抗体製剤(インフリキシマブの項参照)です。
生物製剤の中では現在、世界でもっとも多く使われていて、生物学的製剤の中では世界標準に位置づけられています。

11)トシリズマブ(アクテムラ®)

皮下注射(2週に1回)・点滴注射(月に1回)のいずれでも投与可能な生物学的製剤で、TNF-αと異なるIL-6(ILシックス)というサイトカインの作用を抑制するお薬です。
もともと国産で、本邦で最も実績のあるお薬です。
炎症や炎症反応を抑制する作用が非常に強く、関節リウマチ以外の多くの炎症性疾患にも用いられています。
このため、薬科も生物学的製剤の中では最も安価となってきています。
皮下注射で用いる場合、自己注射が認められています。

12)アバタセプト(オレンシア®)

共刺激という免疫のプロセスを抑制する生物学的製剤です。
サイトカインそのものを抑制する製剤が生物学的製剤の中心ですが、このお薬はユニークな機序で自己免疫の課程が進行するのを抑制するユニークな作用をもっています。
感染症の合併などが少なく、比較的安全性が高いお薬です。
点滴投与・皮下投与のいずれも可能なお薬です。皮下注射では週に1回の投与が必要で自己注射が認められています。

13)ゴリムマブ(シンポニー®)

皮下注射ですが、月に1回の投与が可能なTNF-α阻害薬です。
一般に皮下注射製剤は週に1−2回の投与が必要ですが、こちらの製剤は投与間隔が長くても有効性が得られるため、頻回の通院が困難な患者さんでも比較的容易に投与することができるため繁用されています。

14)セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)

抗TNF-α製剤ですが、一部構造が改変されており、さらにポリエチレングリコール(PEG)という分子で効果が持続するようにされたお薬です。
これにより、炎症部位により取り込まれやすい作用があり、より選択的で効率的に作用するとされています。
胎盤の通過がしづらく、臨床試験でも安全性が示されているため、妊婦さんや授乳中の患者さんでも比較的安全に投与できます。
2週に1回の投与が必要です。

セルトリズマブ・ペゴル(シムジア®)
15)サリルマブ(ケブザラ®)

カナダで開発された抗IL-6抗体製剤で、皮下注射が認められています。自己注射可能な製剤です。

JAK阻害薬(ジャックそがい薬)

JAK阻害薬(ジャックそがい薬)

生物学的製剤の多くは免疫に関わるサイトカインなどの分子そのものに対する作用をもつ抗体の製剤です。
分子量が大きいこともありこれらの製剤は注射による投与が必要でした。
サイトカインは免疫に関わる細胞や関節の細胞の表面まで届くと、細胞の表面にある特定のタンパク質(受容体:レセプターなんて言います)に結合します。
サイトカインに欠乏されたレセプターは化学反応を起こして、細胞の中に炎症を起こすように命令を出します。ちょうど、車を運転する前に鍵をイグニッション(鍵穴)に差し込んでエンジンを始動するような感じです。
このレセプターが起こす化学反応には、決まった酵素が働く必要があり、最も関係しているのがヤヌス・キナーゼ(JAK)と呼ばれる酵素です。
従いまして、この酵素の働きを一時的に落とすことで、炎症を起こらなくさせることができます。
この酵素を抑えるのがJAL阻害薬と呼ばれるお薬の一群です。鍵穴に鍵を差し込んでも、エンジンがかからないようにするわけです。
この系統のお薬は、抗体ではなく、分子量の小さい合成化合物ですので、生物学的製剤のように注射ではなく、内服することで効果を発揮することができます。
受容体の酵素は、複数のサイトカインで共通して用いられているので、複数のサイトカインを同時に働くことを抑えるため、強力に作用します。
免疫抑制作用なども強いため、帯状疱疹や感染症の危険もあるため、充分使用に熟達した専門家の投与が望まれます。

16)トファシチニブ (ゼルヤンツ®)

JAK阻害薬の中で最も早く開発され、使用されているお薬です。
1日1−2回の内服で使用します。
効果は強力で従来のメトトレキサートがあまり効かない患者さんや生物学的製剤でもコントロールが難しい患者さんにも効果を認めることが示されています。
ただし、最近は血栓症や特定の悪性腫瘍がある場合、その進展を助長する可能性があるとする報告もあり、投与に際しては注意が必要です。

17)バリシチニブ(オルミエント®)
JAK阻害薬

トファシチニブの次に発売されたお薬です。
JAKという酵素は4種類あることが明らかになっていますが、いずれの酵素も抑制する製剤で、抗炎症作用は強力です。
コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化を抑える作用も明らかにされ、コロナ感染者にもかなり用いられました。

18)ペフィシチニブ(スマイラフ®)

国産初のJAK阻害薬です。
他のJAK阻害薬同様多くのJAKを抑制することができるお薬です。

19)ウパダシチニブ(リンヴォック®)

最近新しく発売されたJAK阻害薬で、4種類あるJAKのうち、特にJAK−1という関節リウマチや炎症性疾患に関与が多いサイトカインの作用を選択的に抑えることがきます。
効果は強力で他の薬剤で抑えられない関節リウマチの活動性を効果的におさえることができます。
帯状疱疹や感染症へ注意が必要です。

20)フィルゴチニブ(ジセレカ®)
JAK阻害薬

ウパダシチニブと同様新しく発売されたJAK阻害薬で、やはり選択的な効果を示すお薬です。
やはり効果は強力ですが、帯状疱疹や重症感染症などの発生頻度は他の薬剤と比較してやや少ない傾向があります。

その他の関節リウマチに使われることがあるお薬

ここから先のお薬は関節リウマチにも他の疾患にも用いられるお薬です。
関節リウマチの治療では炎症や痛みを一時的用いることがありますが、最近では、可能であれば長期に漫然と使用することは進められません。

21)副腎皮質ステロイド薬(コルチコステロイド)
プレドニン(プレドニゾロン)の是非

もともと人体の副腎と呼ばれる臓器で作られているホルモンを錠剤に加工したもので、強力な抗炎症作用や抗ストレス作用があります。
他の膠原病やリウマチ性疾患では特効薬として用いられ、関節リウマチでも炎症が極めて強い時には用いられます。
一時は関節リウマチの治療に必須と考えられていましたが、多くの副作用があるため、限定的に使用することが望まれています。

以下にコルチコステロイド薬の副作用を挙げます。

副作用

  • 胃潰瘍
  • アレルギー
  • 不眠
  • 興奮
  • 筋力低下
  • 筋萎縮
  • 耐糖能異常(糖尿病)
  • 高脂血症
  • 高コレステロール血症
  • 骨粗鬆症
  • 白内障
  • 緑内障
  • 皮膚萎縮
  • 脱毛
  • 易乾癬性(カビ・細菌・ウイルスなどにかかりやすくなる、かかったら重症化しやすくなる)

など

22)非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)

いわゆる消炎鎮痛薬で関節リウマチの関節痛を一時的に軽減させる作用があります。
基本的に抗リウマチ薬そのものは速効性の鎮痛効果が無いため、抗リウマチ薬の鎮痛効果が現れるまでの間、あるいは普段は関節リウマチの関節炎が抑えられていても一時的に悪化したときなどに用いられます。
副作用は胃腸障害(胃潰瘍)や腎機能障害などです。
様々な科で比較的容易に処方されますし、薬局などでもOTC薬として簡単に手に入りますが、腎機能に異常がある場合には更に腎機能を悪化(急性腎不全)させるおそれがあるため、注意が必要で、可能であれば熟練した医師による投与が望まれます。
以下にNSAIDsに分類されるお薬をあげます。

代表的な消炎鎮痛薬

  • ロキソプロフェン(ロキソニン®)
  • ジクロフェナク(ボルタレン®)
  • セレコキシブ(セレコックス®)
  • アンピロキシカム(フルカム®)
  • アスピリン(バファリン®)
  • インドメタシン(インダシン®)
  • イブプロフェン(イブ®)
  • メフェナム酸(ポンタール®)

など

免疫抑制薬を内服されている方への注意事項

免疫抑制薬を内服されている方への注意事項

多くの免疫抑制薬は催奇形性などを有するため、妊婦さんや妊娠を考えている患者さんには禁忌です。
投与可能な免疫抑制薬は、使用した場合のメリットがデメリットを上回る場合、必要最小限に使用することとされ、タクロリムスのみ妊娠中でも使用可能です。
また、感染症を予防するために対策が必要です。
感染症予防のため

  1. 予め感染症をスクリーニングする。 勿論、ひどい咳や発熱、嘔吐・下痢のような明らかに感染症が疑われる際に免疫抑制薬を投与することはありませんが、潜在的(知らないうちに)感染しているような比較的弱い細菌もあり、こうした方に免疫抑制薬を使用すると急に重症化したりすることがあるので予め調べておくことが重要です。
    最も注意を払うべき感染症は結核であり、ゆっくり進行することがあるので、本人も感染していることに気づかない場合もあります。
    胸部レントゲンや採血で感染をスクリーニングする必要があります。
    もう一つは肝炎です。
    通常で行う肝炎検査は肝炎の抗原検査で、こちらは現在肝炎にかかっている方で陽性を示します。
    しかし、最近の研究では以前に肝炎にかかった方でも、免疫抑制薬や抗がん剤などを使用すると、体の中に潜んでいた肝炎ウイルスが再び勢いよく増殖することがあり、その場合にかなり重症化することがあります。
    ウイルス性肝炎はたとえ治癒することがあっても、その後ウイルスが体から居なくならないことが知られています。
    以前は予防注射の集団接種や子供の頃に知らず知らずの内に感染して軽く済んでいる場合もありますので、かかったことがあるかを抗体で検査し、もし陽性であったら、免疫抑制薬を開始する前にPCRでウイルスが増えていないかどうかを検査します。
    たとえPCRが陽性であっても肝炎の治療を行いながら、免疫抑制剤を投与することは可能です。
  2. ワクチン接種 ウイルス感染などを予防する目的で免疫抑制剤の投与前や投与中に予防注射を勧める場合もあります。
    免疫抑制薬や生物学的製剤の投与中は、生ワクチンは禁忌になっています。具体的には、従来の水痘ワクチン、麻疹、風疹のワクチンなどです。
    ワクチン投与の前にはそのワクチンが生ワクチンでないことを確認する必要があります。
    最近、帯状疱疹が話題になっています。
    帯状疱疹とは、いったん水痘(みずぼうそう)にかかった方では、体の中にウイルスが残っていることがあり、免疫状態が低下した際に、ウイルスが神経に沿って出てきて発疹を作る病気です。
    神経に沿った発疹の形が帯を巻いたような形になるので帯状疱疹とよばれています。
    帯状疱疹は発症前後から、あるいは発疹が改善してからもひどい神経痛を残すことがあります。また、眼球の周囲に現れると失明する危険や、脳炎に発展してしまうケースもあるため、しっかり予防・治療することが必要です。
    最近では帯状疱疹用の不活化ワクチンが発売されているので、免疫抑制剤の投与前や投与中はワクチンで予防することをお勧めします。
    免疫抑制薬を投与中にコロナやインフルエンザのワクチン摂取を受ける場合、お薬によっては折角投与をうけても抗体がうまく作られないこともありますので、製剤によってはいったん1週間程度お休みする必要があるものもあります。
    詳しくは担当医に聞いてください。
  3. 日々の感染予防への配慮 感染の予防には、コロナ禍の時と同様マスクや手洗い、手指消毒が感染予防には有効です。
    海外では生の肉や魚を食べないことなども言われていますが、本邦では文化の違いもあるため、刺身の制限などあまり言われないこともありますが、海外では避けるべきとなっています。

関節リウマチの合併症

関節リウマチでは関節以外の全身症状を合併することがあります。
関節リウマチの治療はこうした合併症に同時に注意を払いながら治療することが重要です。
以下に、関節リウマチの合併症を解説します。

1. 他の膠原病の合併

関節リウマチは免疫の異常をベースに発症することが多く、同様に免疫の異常で起こる他の膠原病をしばしば合併します。
最も頻度が高く見られるのは、シェーグレン症候群で、統計にもよりますが約3割くらいの患者さんで合併が見られるとされています。
シェーグレン症候群については詳しくは膠原病の項で詳しく説明しています。

2. 間質性肺炎・肺線維症(リウマチ肺)ほか肺合併症

関節リウマチでは肺の合併症をしばしば生じます。
特に肺が徐々に硬くなり、肺活量が低下するリウマチ肺という疾患を合併することがあります。
リウマチ肺は一般には緩徐に進行することが多いですが、時に急激に悪化することもありこの場合には入院治療の上、強いお薬を使用して治療することが必要になります。

また、間質性肺炎のほかに肺気腫や気管支拡張症と呼ばれる喘息のような疾患を合併することがあります。
関節リウマチの患者さんではレントゲンやCT検査、肺活量の測定など肺疾患を定期的に検査することが必要です。

3. 易感染性

関節リウマチの患者さんの発症には免疫の異常を素地としているため、感染免疫がもともと低下していることがあります。
特に、進行した患者さんでは、日常生活の活動が低下している場合があり、床につきがちになったり、普段あまり活動しないことによって呼吸器を中心とした感染症をしばしば併発します。
また、免疫抑制薬で治療をしている場合には、より感染症のリスクが高くなり、通常では感染症を起こさないような病原菌で感染してしまったり(日和見感染症"ひよりみかんせんしょう"といいます)することもあります。

4. 血液疾患の合併

関節リウマチでは免疫に関する細胞、特に赤血球や白血球などの細胞に異常を来していることがあり、ときに血液系の疾患を合併します。
とくに、メトトレキサートを内服している患者さんでは悪性リンパ腫という一種の血液の癌を合併する場合があり注意が必要です。
また、炎症に伴う慢性の貧血や骨髄異形成症候群という骨髄の病気のため難治性の貧血を合併することもあります。

また、病気の勢いが盛んなまま放置していると、炎症に関係した様々な物質が体内で増加します。
このうち、アミロイドAタンパク質という物質は、慢性の炎症があると、肝臓で合成されるものですが、慢性的に血液中の濃度が高いと、血管の壁や消化管、心臓や腎臓の組織に沈着がすすみ生命に関わる重大な合併症を来すことがあります(続発性アミロイドーシスといいます)。

5. 薬剤による副作用

治療に用いる薬剤は免疫を修飾する作用があるため、注意を要することがあります。
鎮痛薬やコルチコステロイドによる胃潰瘍や肝臓、腎臓、赤血球や白血球、血小板などの数が少なくなる異常が見られます。
肝機能や腎機能が低下すると、薬剤が体の中に溜まりやすくなるため、思いがけない副作用がみられることもあるため注意が必要です。
鎮痛剤を長期に使用されているため、胃潰瘍や消化管出血もしばしば見られます。
無症状であっても、定期的に検診を行うことが望まれます。

6. サルコペニア

最近ではリウマチ患者さんの治療が良くなった結果、長期に患って高齢となったり、高齢になってから関節リウマチを発症する患者さんも増えています。
特に、高齢の患者さんでは関節炎や痛みのために日常生活で活発に動くことができなくなると、慢性の炎症に伴う消耗や栄養障害と相まって手足を中心に筋肉量が著しく低下し、極端に筋肉量が低下した状態(サルコペニア)となりがちです。
同様に骨粗鬆症などの合併を認め、ステロイド投与などで助長され、病的骨折などを来すことがしばしばあります。

7. 血管炎
血管炎

希に関節リウマチに血管の炎症を合併する患者さんもみられます。
皮下の血管に炎症を起こした結果、皮膚の潰瘍や発疹を認めることもあります。
さらに太い血管に炎症を起こすために心筋梗塞などに発展する場合もあります。
こうした患者さんでは多くの場合、血液中のリウマチ因子というタンパク質が高値となっていることが多く、通常の関節リウマチの治療以外に特別に血管炎に対する治療が必要となります。
関節リウマチ自身も治療が難しい病気ですが、血管炎を合併した場合には、とくに「悪性関節リウマチ」という名前で呼ばれ、政府が指定する難病(特定疾患)に分類されています。

8. その他

関節リウマチでも悪性腫瘍の合併も認めます。
特に呼吸器系の悪性腫瘍、血液系腫瘍が多い傾向があります。
また、感染症も多く、日和見感染で起きるような真菌感染やクリプトコッカス、ノカルジアなどの弱毒菌の感染などをみる場合もあります。

その他のリウマチ性疾患

関節リウマチ以外に同時に多くの関節が冒される疾患が知られています。
以下にその疾患について述べます。これらの疾患が疑われる方はいずれも当院で診療が可能です。

1)変形性関節症

加齢によって、あるいは関節への過度な負荷が長期間にわたって続くことによって関節面を覆う軟骨が薄くなつことや、破壊されることによって発生する関節の疾患です。
現在の医学では(いろいろサプリがでていますが)いったん失われた関節の軟骨を有効に再生させることはできません。
鎮痛薬や関節内へのお薬の投与、リハビリテーションによって周囲の筋肉を鍛えることで、ある程度進行を抑制することや、疼痛を和らげることはできます。
膝や股関節、肘や足首など、軟骨の消失からさらに骨の破壊が生じると外科的治療(手術)が必要となりますが、その際には連携している医療機関や大学病院に紹介させていただきます。

2)痛風

尿酸という物質が関節内に沈着・遊離して生じる関節炎です。
詳しくは、痛風・高尿酸血症の項に記載されていますので、そちらをご覧ください。

痛風・高尿酸血症について

3)偽痛風・結晶性関節炎

痛風では尿酸が沈着して関節炎を発症しますが、偽痛風ではピロリン酸カルシウムという物質が関節の軟骨面に付着し、炎症を生じます。
肩や膝など比較的大きな関節に発症しやすく、時に激しい炎症反応や発熱などの全身症状を伴います。
治療や局所治療や鎮痛剤などの全身投与で痛風に準じますが、尿酸降下薬は無効です。
放置しておくと変形性関節症が発症・進展することもあり、また、腎機能が低下した高齢者に発症することが多い傾向があります。

4)若年性特発性関節症

以前は小児リウマチなどと呼ばれていた疾患です。小児のリウマチは成人と類似したものもあれば、随分異なったものもあります。
関節炎・関節痛が主たる症状を示すこと(成人関節リウマチと類似)や、発熱や肝臓や血球系の異常をしばしば来すスチル病などがあります。
血液のリウマチ因子などがしばしば陰性を認めることもあり、診断に難渋することもあります。
治療は成人の関節リウマチに準じておこなわれることが多いです。

5)成人スチル病

成人スチル病(Adult Onset Still’s DiseaseでAOSDとしばしば略されます)は、小児における特発性若年性関節炎(スチル病)に似た症状がみられる疾患です。
発熱と炎症反応高値を認め、多発する激しい関節痛を認めます。
また、肝臓や脾臓が腫大し、血液検査でもGOT(ALT)やGPT(LDH)など肝機能の障害を示す検査値が上昇します。
発熱の前などにサーモンピンク疹という発疹が体幹などに発症することがありますが、一過性に消失してしまうことも多いです。
また、血液検査で炎症反応の上昇以外にフェリチンという体内の貯蔵鉄の量を反映する検査値が著しく上昇する特徴があります。
抗リウマチ薬やコルチコステロイドで治療を行いますが、炎症の制御が難しい場合にはIL-6阻害薬であるトシリズマブ(アクテムラ®)の併用が必要となる場合があります。
また、炎症が極期に達すると貧血や血小板の減少が認められます。
白血球から放出される炎症性の物質(サイトカイン)が著しく高値となり、これが白血球自身に作用して、自身の赤血球などの血球を貪食(どんしょく)してしまうために生じる合併症で、血球貪食症候群と呼ばれています。
この状態は生命の危険を呈することもあるため、大量のステロイドや血漿交換などの集学的な治療が必要となります。

成人スチル病を診断するには、臨床症状と経過が重要であり、血液検査では参考となる検査値(CRP、血沈などの炎症反応や肝機能のデータ、フェリチン値など)はありますが、特異的なマーカーが存在しないため、除外診断(他の疾患の検査を行って、他の疾患を除外して診断に至る方法)を行って診断します。
特に、血液疾患である悪性リンパ腫を除外することが重要で、治療法が異なるため、骨髄や組織の生検を行って充分に検査をすることが望まれます。

成人スチル病は、重症感が強い病態で再発を繰り返す患者さんもいますが、疾患のコントロールが付くと症状が安定し、ほぼ寛解し薬剤が不要となってしまうこともあります。

6)強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylosis; AS)

慢性的に持続する脊椎(背骨)周囲の炎症のため、長期間経過すると背骨が竹の様にまっすぐ固まって癒合してしまう疾患です。
融合した背骨周囲の骨格変化のため、前屈や後屈が難しく、呼吸に合わせて胸郭(胸の骨)などが開かなくなります。
仙腸関節という腰と骨盤の間の両側の関節炎が見られることが特徴で、自発痛や押すと痛む(圧痛)ことがあります。
痛みを感じる関節は、腰だけにとどまらず、手足や肘、肩、膝、アキレス腱、足背(足の甲)など多くの関節に疼痛を感じることもあり、痛みを感じる関節は見た目にも腫れて、手で押したり摘まんだりすると痛みを感じます。

一般的な骨粗鬆症の進行

関節リウマチが関節の袋(関節包)の内側にある滑膜組織が炎症の始まりであるのに対して、強直性脊椎炎では、腱が骨 と付くところ(腱付着部)に炎症が始まることが特徴で腱付着部炎(これはエンセソパチーenthesopathyと呼ばれます)が見られます。

腱付着部の痛みや炎症は、物理的な力が加わりやすい場所なので、それがきっかけとなって炎症が始まり、なかなか終息しないことが病気の発生に繋がると考えられています。
同様に物理的な力が加わる場所と場所として心臓の弁膜や大動脈、目で視力を調節している水晶体レンズの周りの筋肉などにも炎症を生じることがあるので、心臓や大血管、目の炎症(前部ぶどう膜炎)などの合併が見られ、これがきっかけで診断が付く場合もあります。

強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylosis; AS) 強直性脊椎炎(Ankylosing Spondylosis; AS)

一般に炎症反応陽性を認めますが、この病気では、関節リウマチにおけるリウマチ因子や抗CCP抗体など、病気によって現れる特定のマーカーが陽性となることはないので、あくまでも臨床症状とレントゲンなどの画像診断で診断します。

強直性脊椎炎ではHLA−B27という特殊な白血球の血液型遺伝子が検出されることがあり、遺伝子が大きく関与していることが示されていますが、必ずしもこの遺伝子が陽性を示さないケースもあります。
もともと腰痛はいろいろな原因で生じる一般的な症状なので、診断されることが難しく、診断までの期間に10年以上かかったということも珍しくありません。

類似した腰痛・関節痛を示す疾患は数多くあり、一般的にみられる骨粗鬆症による圧迫骨折や腰椎椎間板ヘルニアなどから、高齢者に見られる比較的珍しい骨増殖疾患(DASH)などを鑑別する必要があります。

治療には抗リウマチ薬(サルファ剤系のものやメトトレキサート)が用いられますが、最近では生物学的製剤(TNF-α阻害薬)やJAK阻害薬なども使用され、良好な成績が示されています。
関節リウマチに対して用いられる生物学的製剤は主にTNF-αやIL-6というサイトカインに対するものが主体ですが、SpAではこれらに加えてIL-17、IL-12、IL-23というサイトカインに対する薬剤も使用されます。
発疹にも関節炎にも効果が期待されます。

このような腱付着部炎と脊椎、四肢の関節周囲に炎症が見られる疾患はいくつかあり、一連の疾患とみなされ、脊椎関節炎Spondyloarthropathy(SpA)と呼ばれます。

以下の7)~ 9)はいずれもSpAに分類される疾患です。

7)乾癬性関節炎

  • 乾癬性関節炎
  • 乾癬性関節炎

体幹や膝、肘などを中心に乾癬と呼ばれる発疹が出現し、強直性脊椎炎のような体幹や四肢の関節痛・関節炎・腱付着部炎を生じる病気です。
この発疹はピンク色の不定形で表面に白〜銀色のカサカサと小さくふけのように剥けた皮膚が付着していることが多く、髪の毛の生え際や耳の周りなどに生じていることもあります。
実際には乾癬のある人がみな関節炎を合併するわけではなく、発疹だけの方も大勢います。
また、股間や臀部に広がることもあり、この部位に発疹が生じる場合、特に関節炎の合併が多いことが知られています。
また、爪に乾癬を生じる場合もあり(爪乾癬)、爪の水虫と誤診されているケースもあります。
爪の乾癬では爪が白っぽく濁り、表面が凹凸を示したり、油紙を貼ったように黄色をするような場合もあります。
クリップの先でつついたような小さな窪みをしか生じない場合もあり、注意しないと見落とす場合があります。
このような小さな爪の病変だけでも関節炎を合併している場合があります。
治療は発疹に対する軟膏(ときにビタミンDの軟膏など)と、関節炎に対しては関節リウマチや強直性脊椎炎に準じた治療を行います。

乾癬性関節炎

8)炎症性腸疾患関連関節炎

潰瘍性大腸炎やクローン病といった消化管の病変に合併して脊椎関節炎の症状をみとめることがあり、これらを総称して炎症性腸疾患(IBD)関連関節炎と呼びます。
なかには関節炎が先行して後から炎症性腸疾患が現れることもあるので注意が必要です。
症状は他のSpAと類似していますが、もともとの炎症性腸疾患が改善してくると、脊椎・関節の症状も改善してくる場合も多いです。
関節炎の治療は、他のSpAに準じていますが、メトトレキサートは腸管など細胞の新陳代謝のサイクルが盛んな臓器に副作用を生じることが多いため、使用中には注意する必要があります。

9)ライター病

以前は無菌性尿道炎、あるいは非淋菌性尿道炎に合併するとされていた病気ですが、現在はクラミジア感染症に伴って生じるSpAと考えられています。
クラミジアに対する抗菌薬投与と関節炎に対する治療を行います。

10)リウマチ性多発筋痛症

  • リウマチ性多発筋痛症
  • リウマチ性多発筋痛症

多くは、65歳以上の高齢者で比較的急速に肩や体幹に著しい疼痛を生じ、放置していると歩行や離床(ベッドや布団から起き上がること)も困難となる病気です。炎症反応の高値を示します。
疼痛の原因が筋肉にあるようにもみえますが、筋肉の破壊の所見や検査値の異常(クレアチンキナーゼCPKという酵素の上昇)は伴いません。
また、炎症によって消耗して短期間にかなり体重が減少することがしばしば起こります。
この病気の本態は、肩関節や股関節の(多くは両側性)の原因不明の関節炎(厳密には滑膜炎)です。
コルチコステロイドの中等量で多くは改善しますが、半年以内で半数以上が再発することも知られており、なかなかお薬がきれない事態も起こります。
こうした場合には抗リウマチ薬の併用が必要となる場合もあります。

また、特に注意が必要なのは悪性腫瘍の合併が見られる場合があることです。
体から腫瘍を排除しようとして働く腫瘍免疫という作用や腫瘍そのものが何らかの炎症物質を出して、病気を生じさせている機序が関与していることが示されています。
勿論、全例で癌が認められるわけではありませんが、病気の症状だけに目を向けていると重大な癌などを見落とす恐れがあるので可能な限り悪性腫瘍の合併などを調べる必要があります。
この病気もリウマチ反応のような特定の疾患標識マーカーを有していないため、除外診断(他の病気を否定して診断すること)が必要になります。
悪性腫瘍の除外のためにも、最初は入院してよく調べてから治療を開始することが望ましいです。

11)RS3PE症候群

この病気は1985年に提唱された比較的新しい病気です。
リウマチ因子は陰性ですが、リウマチのように手指の関節がはれ、同時に体の様々な部位にむくみ(浮腫)を生じます。

RS3PE症候群

症状は左右で対称性に認められることが多く、CRPなど炎症反応が高くなります。
高齢者に比較的多く発生し、発症も比較的急激です。
RS3PEの正式名称はRemitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edemaでそれぞれの頭文字をとって付けられた名前です。
"remitting"は予後が良くて、血液反応(リウマチ反応)が陰性という意味の"seronegative"、左右対称の"symmetrical"、滑膜炎"synovitis"の"S"が付く症状が3つある疾患で浮腫がありますという意味になります。
滑膜炎は関節リウマチでよく見られる症状で関節の袋の内側を裏打ちしている組織のことです。
予後良好とはいえ、悪性腫瘍の合併を認めたりすることもあるので、全身の検査は必要です。
治療にはコルチコステロイドが用いられ、症状自体はよく効きますが、再発もあるためお薬の減量がなかなか進まない場合もあります。
また、リウマチ性多発筋痛症や高齢発症関節リウマチ(EORA)、偽痛風や他の膠原病との鑑別も重要です。

12)掌蹠膿疱症

比較的珍しい疾患ですが、掌や足の裏の皮膚に小さな発疹を認め、鎖骨と胸骨(胸の正面にあるネクタイの様な骨)の間の関節や手足の関節が腫れたり痛みを感じたりする病気です。
手足の発疹は中に液体を有する小さな発疹(水疱)ですが、よくみると中身は透明では無く白っぽい内容物(膿です)を含んでいます。

掌蹠膿疱症

よく汗疱という発疹が類似の症状を示しますが、この場合、発疹の中身は汗のような液体なので透明です。
発疹が悪化すると破裂して、皮膚が小さく剥け、やがて掌や足の裏全体の皮膚が薄く剥けてただれるような症状を示します。
口腔内環境と関連していることが古くから示されており、歯科で補綴に用いる金属との関連も示されていますが、必ずしも歯科治療を受けていない場合もあり、はっきりした原因はいまのところ明らかになっていません。

治療法は乾癬に準じた治療を行いますが、生物学的製剤(IL23製剤)なども用いられます。

13)偽痛風

痛風の項で詳しく説明しています。

14)その他の急性・慢性滑液包炎

滑液包とは聞き慣れない用語かもしれません。
これは、関節周囲や複数の筋肉の間にある組織で関節の袋(関節包)と類似した構造で、中に滑膜をもった薄い線維組織に包まれた袋です。
筋肉や関節の摩擦を減らしたりクッションの役割をしていると考えられています。
関節包と繋がっている場合もありますが、孤立して存在しているものもあります。

インフルエンザなどのウイルス感染症や事故やスポーツ障害によって生じる関節周囲の組織の炎症です。
感染症後の急性滑液包炎は、インフルエンザなどの関節痛の後、急に関節ではなく体幹(腰や背中、臀部など)の筋肉痛に類似した症状を認めることがあります。
炎症反応の上昇を伴うこともあります。
自然に改善することが多いですが、2週間以上持続する場合もあります。
このようなときには主に経口の鎮痛薬など対症療法を行うことが多いですが、局所へのコルチコステロイドの注入などが有効な可能性もあります。

変形性の関節炎で見られるのは、膝のお皿の下にある滑液包(膝下上嚢しつかじょうのう)の慢性滑液包炎で水が溜まることがしばしばあります。
他に、肩関節や肩甲骨の周り、臀部の周囲にも滑液包があり、ときに変形した関節や過剰な機械的刺激などにより腫れたり痛みが出たりすることがあります。

15)更年期・内分泌関連関節症

更年期関連関節症

更年期や甲状腺機能の異常によってしばしば手指を中心とした痛みを感じることがあります。
リウマチ因子や炎症反応が生じることは滅多に無く、関節や腱に痛みがあります。
更年期では初期の関節リウマチと類似した症状ですが、フラッシングなど他の症状を認めることが参考になります。
ホルモンの補充療法が有効なことがありますが、女性ホルモンは抗体産生を増加させる傾向もあるため、既存の膠原病がある場合増悪や発症のきっかけになることもあるため、使用する前に予めスクリーニングをすることが望ましいです。
加味逍遙散などの漢方薬や消炎鎮痛剤が有効なことがあります。
甲状腺機能は亢進しても低下しても関節痛を自覚することがあります。
また、甲状腺機能亢進症の際に使用されるチアマゾール(メルカゾール®)も関節痛を来すことがあります。

16)骨粗鬆症

骨組織は堅い組織であり、一見新陳代謝をしていないように考えられがちですが、常に古い組織が壊され、新しい組織に入れ替わっています。
皮膚などでは、古くなった組織が垢として表面から剥がれ落ちるため、新陳代謝をしていることがわかりやすいですが、骨組織では体の深部にあるためイメージしにくい傾向にあります。
骨の新陳代謝では、白血球の一部から変化した破骨細胞という細胞が古くなった骨組織を食べます。
破骨細胞はライン状に並び、ちょうど野焼きのように古くなった組織を処理します。
一方で造骨細胞は、骨組織にもともとある細胞で骨組織を作ります。
骨組織の主成分はカルシウムとリンが結合したものですが、ただのコンクリートのような塊ではなく、骨基質と呼ばれるコラーゲンやムコ多糖体、マグネシウムなどの骨格となる組織が鉄筋のような役割をしており、この間にカルシウムやリンが沈着して成り立っています。
このように、造骨と破骨のバランスが良好に保たれることによって、骨は常にフレッシュで細菌感染などにも強く良好な状態を保つことができます。

年齢が進んだり、寝たきりなどの著しい日常生活活動の低下、代謝の病気、コルチコステロイドなどの一部の薬剤は、この骨の新陳代謝のバランスが崩れ、破骨の速度に造骨の速度が追いつかなくなって起こります。
結果的に、骨は薄くなって(菲薄化)して、通常では考えられないような弱い力や転倒で骨折を生じます。
転倒によって生じやすい場所は、太ももの骨(大腿骨)と骨盤の間(大腿骨頸部)や手首、とくに親指側の橈骨と呼ばれる骨の手首よりの部位(橈骨遠位端:フォーク状骨折とよばれます)です。
また、背骨(脊椎)では、知らない間に荷重によって圧迫骨折を来すことがあります。
圧迫骨折を起こすと、暫くの間、炎症が生じて動けないくらいのひどい痛みが出現しますが、実際に目で確認できる圧迫骨折がなくても、骨粗鬆症では背中や腰に慢性的な痛みを感じることがあります。
背骨など大きな加重が加わる場では、骨の断面を細かく観察すると、ごく小さな柱のようなものがランダムに積み重なっていて、骨梁(こつりょう)という複雑な構造を作っています。
その名のとおり、この微細な骨の梁が数多く存在することにより強度が保たれるようになっています。
骨粗鬆症では骨の新陳代謝が阻害されるため、この小さい骨梁が骨折することが原因となると考えられています。

骨粗鬆症はまず診断することが重要です。
現在、最も正確に骨粗鬆症を診断できるのが骨密度の検査で、レントゲンを使って骨の密度を測定する方法です。
中でもDEXA(デキサ)という検査が最も信頼性が高く骨密度の減少を診断することができます。
年齢によって骨密度は低下しますが、若い人(20-44歳)の中央値から80%以下まで密度が減少していれば、骨粗鬆症の疑いがあり、70%を下回ると骨粗鬆症の診断となります。
通常は太ももの付け根(大腿骨頸部)と腰の部分の背骨(腰椎)で測定を行います。

骨粗鬆症の治療は通常、生活の指導と薬剤を用いて行われます。
日常生活上の注意でもっとも重要なことは、食事と運動(日常活動を活発に保つ)ことです。
食事ではカルシウム、ビタミンD、ビタミンKなどを豊富に含む食品を摂ること、インスタント食品やスナック菓子の食べ過ぎがあれば、減らし、カフェインやたばこ、アルコールの過剰摂取を減らすことが望まれます。
さらに、ウオーキングやジョギング、筋肉運動の反復などは骨代謝にとって重要です。
骨に重力がかかることによって、骨塩や骨の質は良好に保たれます。
逆に、長期の臥床や日常生活活動の低下は骨粗鬆症を促進させることが示されていますので、運動習慣は骨の健康にとっても重要です。

治療で使用する薬剤について
  1. 最も一般的に用いられるのがビタミンDです。ビタミンDは通常食事で原料が入り、皮膚でも合成されます。このビタミンDの原型は肝臓に運ばれ、最終的には腎臓で完成形(活性型ビタミンD)となります。
    骨粗鬆症の治療に用いられるのはビタミンDの中間型か完成型です。これらは体内に入ると、食事からのカルシムやリンの吸収を良くし、尿や腸へのカルシウムやリンが排泄される量を減少させます。これによって、カルシウムやリンが少なくなった骨粗鬆症に陥った骨の量を改善させることが期待されます。
  2. カルシウム製剤は文字通りカルシウム不足の場合に骨へのカルシウムを供給するための飲み薬です。
  3. ビスホスホン酸(ビスホスフォネート)は最も強力に骨からのカルシウム、リンが抜けるのを抑制させる薬です。骨表面に直接作用して骨からのミネラル放出を抑えます。
    いくつか種類があり、毎日内服が必要なもの、週一回内服するもの、月に一回内服するもの、注射で用いる薬もあります。
  4. 骨代謝に必要なビタミンK製剤を補うための薬です。本来、納豆やほうれん草、小松菜、ニラ、ブロッコリーなどにビタミンKは含まれていますが、食品だけからでは充分に補いきれない分を内服によって補います。
    ビタミンK不足による骨代謝の低下は採血によって調べることができます。
  5. SERM(サーム:選択的エストロゲン受容体作用薬 Selective Estrogen Receptor Modulator)[バゼトキシフェン(ビビアント®)、ラロキシフェン(エビスタ®)]は更年期以降(閉経後)の女性で骨粗鬆症となった方に有効なお薬です。女性ホルモンの低下は造骨を低下させますので、女性ホルモンの補充が有効です。
    ただ、女性ホルモンは乳がんや血栓症のリスクになることがあるため、ほかの作用をそぎ落として骨代謝に特化して作られたのがこちらのお薬です。
  6. 抗RANKL抗体製剤(デノスマブ、プラリア®)は破骨細胞に直接作用し、骨破壊を促進させる作用のある物質を抑制する作用のある注射薬です。半年に1回の投与で用いられます。
    近年、抗リウマチ薬としての効果も示され、関節リウマチの治療にも用いられます。
  7. 副甲状薬(PTHホルモンアナローグ)は骨のミネラルのみならず、造骨作用も改善する作用のある薬で、注射で用いる薬です。遺伝子組み換え技術によって製造されたテリパラチドと呼ばれるお薬(フォルティオ®、テリボン®)で、もともと体内にある骨に作用する副甲状腺ホルモンという物質と類似の作用を示します。
    注射は連日か週に1回の投与の製剤があり、患者さんがご自宅で自分で注射する自己注射が認められています。
  8. ヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体(ロモソズマブ、イベニティ注®)製剤は、舌を噛みそうな名前ですが、やはり強力に造骨を促進させ骨の質を改善させる作用のある注射製剤です。

17)線維筋痛症

fibromyalgiaにおける圧痛点

原因不明の筋・骨格・関節に疼痛を生じる疾患であり、通常、炎症反応は検出されません。
また、特異的な検査のマーカーも存在せず、理学的は押して痛い部位(圧痛点)が診断のための基準に組み入れられていますが、他の疾患や健常者でも痛みを感じることがある腱付着部などの痛みであり、診断に苦慮することもしばしばあります。
疼痛閾値の低下や、場合によっては心理的・精神的な要因も関与していることが示唆されており、現在のところ原因ははっきりしていません。

膠原病内科

膠原病とは、それぞれの臓器や組織の間を繋いだり支えたりしている組織(結合組織などと呼ばれています)に自身の免疫の働きが原因となって、炎症が発生する病気です。
結合組織とはイメージしづらい組織ですが、皮膚や皮下組織、筋肉、関節、血管などの組織がそこに含まれます。
また、肺や腎臓などあらゆる臓器の中でも、間をつなぐように充填しています。
例えば、肺では肺にしかないような空気の通り道や、顕微鏡レベルで観察すると、酸素と炭酸ガスを交換する器官があり、腎臓は血液を濾過したり必要なものを吸収したりする器官があります。
このように、それぞれの臓器にはその臓器特有の微細な器官をもっていますが、この小さな器官同士を繋いだり、栄養や酸素を運んだりする血管はどこの組織でも共通です、このような組織も結合組織に含まれます。
"膠原"とは難しい字を書きますが、こちらは明治時代、結合線維に豊富に含まれているコラーゲンを日本語訳したものであることが知られています。
結合組織はコラーゲン以外にも多くの成分が含まれていますが、コラーゲンを豊富に含むという意味で、膠原病という言葉が使われます。

炎症は感染症や化学物質、外傷などの要因によってしばしば生じる現象です。
結合組織の感染による炎症、例えば、皮下組織に細菌が入った場合、これは蜂窩織炎(ほうかしきえん)と言いますし、コロナウイルスによる間質性肺炎なども結合組織の炎症です。

しかし、膠原病による炎症はこうした外的要因ではなく、自身の免疫異常によって炎症を生じたものです。
免疫異常による炎症というと、さらにややこしいのですが、例として、蜂に刺された場合を考えてみましょう。
蜂にさされると、刺された場所を中心に皮膚が凄く腫れます。
では、その腫れ上がった部分が全て蜂の体液なり毒液でできているというわけではありません。
蜂の毒素は、患部では目に見えないほど非常に僅か(ミツバチで1/10mg)ですが、赤く腫れている部分は何センチにも及びます。腫れているのは、自身の白血球が多く集まり、更に集まってきた白血球から化学物質が放出されることにより血管から水分がでてきたりして、腫れている部分を形作っています。
つまり、自分の組織自体が炎症の主成分であり、大事なことは自身の白血球が何かのきっかけがあると、このような炎症を至る所につくる能力を持っているということです。
感染では細菌やウイルスそのものや、そこから分泌されるタンパク質などがきっかけとなりますが、外傷や化学物質でも同様で、その部位に白血球が集まって盛んに活動をします。
では、白血球自身の問題や、本来、炎症を起こさないような体内の物質に反応してしまうような体質をもった人では、外的な要因が無くてもずっと炎症が続く状態が起こることが想像できるかと思います。
つまり、これが自己免疫疾患であり、これが結合組織に生じるのが膠原病と呼ばれる病気です。

膠原病にはいくつも種類がありますが、病気の成り立ちが似ているため、共通してみられる症状や検査の異常がある一方、免疫に関わるメカニズムの異なった場所に変調を来すことがあるため、病気の種類によって、それぞれ異なった性質を示しています。
膠原病は、比較的新しく確立された病気の概念であり(1940年代)、それまではほぼ全ての病気は感染症であると考えられていました。
外界から自己の感染を防ぐ免疫に関する学問が進歩することによって、これまで感染症や原因不明に分類されてきた疾患の中から切り取られるようにして、見つかってきました。
さらに免疫学の研究は現在も続いており、その最先端では新しい技術を取り入れて、なお進歩を続けています。
このことによって、新しい発見が年単位、月単位で続き、これに伴って、新しい膠原病や自己免疫疾患も見つかり、現在もその数は増え続けています。

抗核抗体・自己抗体について

多くの膠原病では、基礎に免疫系の異常があるため自身の細胞や細胞の構成成分に対しての抗体が検出されます。
自身の体の成分に対する抗体は通常ではできないように抑えられていますが、特に、抗核抗体という細胞の「核」に対する抗体が検出されることがあります。
核にはDNAやDNAに関連したタンパク質が含まれていて、抗核抗体の中でどのような種類の成分に対しての抗体であるのか(サブクラスといいます)は、それぞれの膠原病で異なっているため、診断の決め手になることがあります。
また、抗核抗体以外に自身の細胞質に対する抗体があらわれる膠原病もあり、どの細胞成分に対する抗体であるかを調べることも重要です。
これらの自己抗体は採血によって調べることができます。
血中の抗核抗体の存在は膠原病があることが疑われますが、自己抗体のみが陽性となり、とくに膠原病でない場合もあります(ウイルス感染や特定の薬物の使用による場合など)。

典型的(古典的な)膠原病

1)全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス

全身性エリテマトーデス(Systemic Erythematodus; SLEと呼ばれます)は膠原病の代表的な疾患で、数多くの免疫異常による症状を来す病気です。
正確なメカニズムは完全には明らかになっていませんので、症状と検査の組み合わせで診断することになっています。
多くの患者さんで、診断のきっかけとなるのは皮疹であり、顔面の中心に蝶が羽を広げて停まっているような形の発疹(蝶形紅斑)と呼ばれる発疹が顔面全体にあるいは部分的に出現します。
また、手足、耳介(耳)などに発疹を生じます。
爪の周囲や指の先端にも霜焼けのような発疹(凍瘡様皮疹chilblain lupus)を来すことがあり、こちらはこの病気に特徴的とされています。

全身性エリテマトーデス

↑の表は従来から用いられてきた1997年の診断基準でしたが、最近は以下にしめすような診断基準も用いられています。

SLICC分類基準

臨床症状
  1. 急性皮膚エリテマトーデス(頬や全身の紅斑)
  2. 慢性皮膚エリテマトーデス(慢性の紅斑、円盤状)
  3. 口腔潰瘍(口内炎や粘膜の潰瘍)
  4. 非瘢痕性脱毛(脱毛症)
  5. 滑膜炎(2カ所以上の関節の腫れ、痛み)
  6. 漿膜炎(胸膜炎による胸の痛みなど)
  7. 腎症状(蛋白尿や血尿、腎機能の障害)
  8. 神経障害(痙攣などの脳の症状や、手足のしびれなど)
  9. 溶血性貧血(赤血球が壊れて生じる貧血)
  10. 白血球減少、リンパ球減少
  11. 血小板減少
免疫学的項目
  1. 抗核抗体(自分の細胞の核に対する抗体)
  2. 抗ds-DNA抗体(二本鎖DNAに対する自己抗体)
  3. 抗Sm抗体(特異性が高い)
  4. 抗リン脂質抗体(自身の血液凝固因子に対する自己抗体)
  5. 低補体血症(血中の補体というタンパク質の低下)
  6. 直接クームス陽性(自身の赤血球に対する抗体がある)

"臨床症状"と"免疫学的項目"のうち、それぞれ1項目以上を含み、かつ4項目が陽性であるもの。
また、上記がなくても病理組織でSLEの腎炎(ループス腎炎)の所見があり、抗核抗体・抗ds-DNA抗体が陽性の場合

同様に、寒い環境やストレスが加わったときに、手指や足の指が急激に紫色になったり、蝋燭のように白くなることもあり、こちらは短時間で改善することがあり、急激な血流の変化が原因です(Raynaud減少、レイノー現象と呼ばれています)。
短期間に比較的急速に進む、脱毛をきたすこともあります。
四肢の関節に関節炎を生じ、痛みのため日常生活がしばしば阻まれます。
ほかにも蛋白尿、血尿を示す腎臓病(ループス腎炎と呼ばれています)を生じることもあります。
軽微な腎炎のこともありますが、数週間で末期腎不全に至ることもあり、SLE患者さんの予後を作用する大きな合併症です。
意識や精神に変調をもたらす炎症(ループス脳炎)を示すことがあり、生命の危険や後に重大な後遺症を残すことがあります。
さらに、間質性肺炎や胃腸炎、胸膜炎や腹膜炎、心臓の周囲に水がたまるような合併症を来すこともあります。
病気の名前にあるとおり、全身にさまざまが合併症を来すことが特徴で、それぞれの患者さんで現れてくる症状は異なります。
重症から皮膚の炎症のみを示すのみの軽傷者まで様々です。さらに、同じ患者さんでも時期によって前面に現れてくる症状が変化することもあります。
血液検査では白血球(リンパ球)や血小板、赤血球の減少や、通常は見られることのない自身の細胞の核に対する抗体(抗核抗体)なかでもDNAに対する抗体が陽性となります。
一般的な炎症反応の指標としてCRPというタンパク質がしばしば用いられますが、この病気ではかなり炎症が強くなってもCRPは上昇しないことが多いです。
炎症に関わる補体という血液中に存在するタンパク質はむしろ減少し、これが病気の活動性を示す指標として役立つことがあります。
ときに血液を凝固させるための凝固因子という血漿中の物質に対する抗体も出現する病気を合併することがあります(抗リン脂質抗体症候群)。

SLEの治療に使われる薬

こうした多彩で重大な合併症を有する本疾患も医学の進歩により、治療法が確立されてきています。
初期から重症を示す患者さんには初期に協力な治療を行い、その後は再発を抑制する「寛解導入療法」と「寛解維持療法」の二段階で治療法が組み立てられます。

コルチコステロイドが使用されるようになる前には、生存率は極めて不良であったものの、現在は良好となっています。
このため、コルチコステロイドを長期に使用することで現れる様々な合併症を抑制することがクローズアップされています。
以下にSLEの治療に使用されているお薬を紹介します。
中には重大な副作用を来すものもあるため、SLEの診療に熟練した医師により治療をうけることが重要です。

1) ヒドロキシクロロキン(HCQ)(プラケニル®)

もともと抗マラリア薬として使用されていた製剤で、キニーネという植物からとられた生薬が原点となった薬です。
以前、本邦でも鎮痛剤としてかなり使われていたこともありましたが、漫然とした使用によって網膜症から視力障害を来すことが示され、一時使用を中止されていました。
しかし、免疫を低下させる作用の強い薬剤やコルチコステロイドの使用頻度を減らせる利点があることや、関節炎や皮疹に対して効果が高いことなどより、2015年に本邦で再承認となりました。
各国の、あるいは本邦の治療法のガイドラインでは、特に使用禁忌がない場合にはまず最初に使用すべき内服薬として、治療の中心的な役割を担うようになってきています。
本剤の使用にあたっては、視野検査を含む眼科検診を半年〜1年に一度は行い、合併症が出た場合の早期対応を行うことが推奨されています。

2) コルチコステロイド

本剤はSLEの特効薬であり、中心的な薬剤です。
中等症から重症の患者さんまで幅広く使用され、基本的には治療に欠かせない薬剤です。
腎炎や肺炎、脳炎などの重症病態の際には点滴で大量投与が行われますが、病勢(病気の勢い)にあわせて、減量を行います。
また、中断による再発や、副腎不全などを来す恐れがあるため、投与中は自己中断などは厳禁です。
しかし、数多くの副作用があり(副作用については、ステロイドの副作用の項をご参照ください)、特にSLEの予後改善に伴って長期使用が問題視されています。
寛解状態にいたった際には、可能な限り原料を行い、1日あたり2.5〜5.0mg未満とすることが望ましいとされています。

3) タクロリムス(プログラフ®)

細胞の中で働くカルシニューリンというタンパク質を阻害する免疫抑制薬です。
主に蛋白尿や腎炎を合併する患者さんに使われますが、関節リウマチの治療薬としても使われる通り、関節炎に対しても有効です。
免疫抑制効果が強く、次に述べるMMFとの併用で臓器移植の拒絶反応の抑制にも使われます。
単独で使われるより、コルチコステロイドと併用し、ステロイドの使用量を減らす効果があります。
腎臓の細い血管を収縮させる作用があり、長期の使用で腎臓の機能の悪化を来すことがあります。

4) ミコフェノール酸モフェチルMMF(セルセプト®)

タクロリムスと同様、合併症として腎炎を有する患者さんを中心に用いられることがある免疫抑制薬です。
もともとは臓器移植にのみ用いられていましたが、現在は幅広く様々な膠原病・自己免疫疾患に用いられています。
以前は寛解維持期に用いられていましたが、初期から用いられることにより、寛解導入にも有効なことが明らかになり、早期から使われるようになってきています。
中等症から重症例では細胞障害性の強いシクロホスファミドが用いられてきましたが、より安全に用いられる可能性があることから、使用頻度が拡大しています。
催奇形性があるため、妊娠中は使用できません。

5) メトトレキサート(リウマトレックス®)

全身性エリテマトーデスに保険適応になっていませんが、関節リウマチ合併例など、滑膜炎の強い患者さんに用いられることがあります。
詳細は関節リウマチの項をごらんください。

6) ミゾリビン(ブレディニン®)

MMFと類似の作用機序を持つ本邦で開発された免疫抑制薬です。
主に腎炎を合併した患者さんに使われますが、関節リウマチにも使用されることから、関節痛に対してもある程度有効です。
比較的作用が穏やかですが、MMFが本邦で用いられるようになってから、使用頻度はやや減少しています。

7) シクロホスファミド(エンドキサン®)

代表的な細胞障害性の免疫抑制薬で、抗がん剤としても使用されている薬剤です。
再発の多い腎炎や重症の病態でステロイドと併用することによって、有効性とステロイドの減量効果が期待できるとするデータが90年代より数多く報告され、繁用されてきました。
骨髄抑制や出血性膀胱炎などの副作用が強く、最近ではMMFなどの免疫抑制薬にとって変わられてきていますが、有効性が高いことから現在も使用されています。
以前は総投与量を積算しながら内服の錠剤を毎日内服することが多かったですが、最近は月に1回や使用量を抑えてさらに2週間程度で間欠的に点滴することが多くなっています。

8) コルヒチン

一般的に痛風発作などに使用されている薬でSLEそのものには保険適応となっていませんが、心臓の周囲に水が溜まる炎症(心嚢炎)を合併した患者さんに用いられることがあります。

9) ベリムマブ(ベンリスタ®)

SLEでは、様々な自己抗体が血液中で見つかりますが、この病気では自己抗体を作る作用と、そのプロセスを増強させる物質(Bリンパ球増殖因子BAFF)が血液中で増加していることが示されている。
ベリムマブはこのような自己抗体をつくる免疫の異常を抑える作用のある分子標的療法(抗体製剤)です。
自己抗体を低下させる作用のほか、関節痛や皮疹、最近では軽症〜中等症の腎炎にも早期から使用することによって効果が期待できることが明らかになっています。
コルチコステロイドと併用することによって、ステロイドの使用量と期間を短縮させることが期待されています。
点滴で月に1回投与するか、週に1回皮下注射で用いられる製剤です。
他の薬剤と比較して、免疫抑制による副作用が比較的少ないことが明らかになっています。

10) アニフロルマブ(サフネロー®)

1型インターでフェロンという免疫に関連したサイトカインに対する抗体製剤です。
皮膚や関節炎に対する作用が高く、一部では中枢神経合併症(脳炎)への効果も期待されています。
インターフェロンはウイルス感染に対する免疫系の初動に関係するサイトカインであるため、コロナ禍での使用が懸念されていましたが、ウイルス感染の重症化による死亡例などは特に増えないことが報告されています。
コルチコステロイドとの併用により、ステロイドの相当量や期間を減じることが期待されている薬剤の一つです。
点滴で月に1回投与します。

11) リツキシマブ(リツキサン®)

SLEに対しては厳密には保険適応となっていませんが、公知申請という形で一部の患者さんに使用可能となったお薬です。
リンパ球という白血球の表面にあるタンパク質に対する抗体製剤で、投与によってリンパ球の一部を減少させます。
シクロホスファミドとともに、悪性リンパ腫などの血液系の悪性腫瘍に化学療法で用いられるお薬でもあります。
重症な脳炎や腎炎などに特に使用される場合があります。
また、腎機能の低下などで他の免疫抑制薬を使うことが難しい場合にも使用されます。

2)シェーグレン症候群

関節リウマチでは、関節の滑膜という部位に炎症を生じますが、この病気では唾液腺や涙腺など、体の外に体液の一部を分泌する(外分泌と言います)腺組織に炎症を起こす病気です。
単独で発生する場合もありますが、関節リウマチなど他の自己免疫疾患に合併して発生することも多い疾患です。

唾液腺の炎症の結果、唾液の分泌が減ります。
口が渇くことを自覚する方もいらっしゃいますが、炎症があっても徐々に進行するため、自覚されていない方も多いです。
この様な患者さんでは、虫歯(齲歯"うし"といいます)や口内炎が増えていることがあります。
客観的には、ガムを10分間噛んで、その間に出てくる唾液を全て試験管などに回収し、量を測定します(ガムテスト)。
10分間で10ml唾液分泌が得られなかった場合は異常ということになります。
涙腺への炎症では涙の分泌量が減ることがあります。
ドライアイの自覚症状がありますが、自覚症状がないこともあります。
逆に最近では、PCでの作業が増えているため、目の乾きを自覚する方も多くなっています。
しかし、この病気で起こる眼球乾燥症は重症で、目の角膜の表面に乾燥のために潰瘍ができることがあり、これが診断の根拠となります。
客観的に涙液分泌の低下を証明する方法として、目頭のところに濾紙を挟んで分泌する涙の量を測定します(シルマー・テスト)。
また、蛍光色素が含まれた目薬をさして、横から光りを当てて潰瘍の縁を観察する検査(ローズベンガルテスト)があります。

シェーグレン症候群

この病気ではドライアイ、ドライマス(両方併せて乾燥症候群Sicca syndromeと表現することがあります)が診断の根拠となり、採血検査で自己抗体(抗核抗体、特に抗SS-A抗体や抗SS-B抗体という名前の自己抗体)が検出されるとこの病気が積極的に疑われます。
診断のための診断基準が示されています。
乾燥症候群自体では、主観的な問題がどうしてもあると思いますので、診断の根拠としてさらに詳しく調べる検査もあります。
唾液腺シンチグラフィーとは放射性同位元素(医療用に用いられる放射線物質は医療線源といいます)を注射し、唾液腺の働きを証明する検査です。
さらにこれらが陽性の場合、唾液腺生検という検査があります。
主たる唾液腺は、のどの突き当たりにある唾液腺、舌の直下、下顎の中央に位置する舌下腺、両側の耳のすぐ下に存在する耳下腺が3種類があり、これらは総称して大唾液腺と呼ばれています。
しかし、小さな唾液腺は皮膚における汗腺のように口の中(口腔内)に広く分布しています。
生検では、唇の内側を切って使用し、小唾液腺の炎症を顕微鏡で観察し診断します。
この病気は政府が認定する特定疾患に分類される病気ですので、申請を受けるためにはこれらの検査で異常値を証明することが必要です。

シェーグレン症候群では、唾液腺以外に胃壁や膵臓などにも異常をきたすことがあります。
シェーグレン症候群でしばしば見られるのは、関節痛です。
関節リウマチに類似していますが単独で関節の破壊に至ることはありません。
ただし、関節リウマチを合併していることもあるため、この場合には関節リウマチに見られるような骨・関節の変形を認める場合もあり、抗リウマチ薬による治療が必要になることもあります。
また、発熱を来すこともあります。
急な発熱の場合、原因となったウイルスなどの感染症を同様な症状を示すことがあるため、感染症のスクリーニングは必要となります。
ほかにもRaynaud症状や、間質性肺炎などを来すことがあります。
また希に、肺高血圧といって、心臓から出ている肺動脈という血管の血圧が上昇することがあります。
不整脈や心不全の危険があるため、高度の医療機関を受診し、カテーテル検査や特殊な治療をうける必要があります。

一般的に乾燥症状だけの場合、治療は対症療法が中心となります。
副交感神経を刺激するお薬は、唾液や涙腺の分泌を促進し、乾燥による症状を緩和させます。
人工的に合成された唾液類似成分のスプレーなどもあります。

腺外の症状や全身の症状が強い場合には、コルチコステロイドを中心に免疫抑制薬が使用されることもあります。

3)皮膚筋炎/多発性筋炎

皮膚筋炎/多発性筋炎

皮膚筋炎は体幹部などに様々な発疹を認め、腕や足、体幹部の筋力低下をおこす病気です。患者さんの数は全国で約2万人以下です。

皮膚は瞼の上に赤紫色の発疹がみられたり(ヘリオトロープ疹といいます)や、手の指の関節の上などに見られる発疹(ゴットロン兆候)が特徴的です。
ときに筋肉痛を認めることもあり、筋肉をぎゅっと握ると痛みを感じる(把握痛)を認めることもあります。
筋力の低下はかなり高度で放置しておくと歩行や起き上がることが困難になってしまうほど重症化することがあります。
腕を持ち上げることが困難になり、髪をとかしたり、シャンプーをするために腕を使うことが大変になります。
また、食べ物を飲み込む(嚥下といいます)動作が難しくなることがあり、食事を摂ることも難しくなる場合があります。
心臓の筋肉に炎症を起こすこともあり、心不全となって、命に関わる場合もあります。
嚥下の障害や心臓の炎症がみられた場合には緊急での治療が必要となります。
採血をすると血液中で筋肉に含まれるクレアチン・キナーゼ(CPK)と呼ばれる酵素の数値が異常高値を示すことがあります。
通常は炎症反応(CRPや血沈)が異常高値を示します。
また、自己抗体(抗ARS抗体、抗JO-1抗体、抗Mi抗体、抗Ks抗体など)が検出されます。
希に発疹だけが出現して、筋肉の症状がほとんど見られないかとても軽い患者さんもいらっしゃいます。
このような患者さんの中には、重症の間質性肺炎を合併し、低酸素となることがあり、初期に強力な免疫抑制治療を要する場合もあります。
これらの患者さんでは特徴的な自己抗体の出現を認めることがあり、抗MDA-5抗体などが知られています。

1. 診断基準項目
  1. 皮膚症状
    1. ヘリオトロープ疹:両側又は片側の眼瞼部の紫紅色浮腫性紅斑
    2. ゴットロン丘疹:手指関節背面の丘疹
    3. ゴットロン徴候:手指関節背面および四肢関節背面の紅斑
  2. 上肢又は下肢の近位筋の筋力低下
  3. 筋肉の自発痛又は把握痛
  4. 血清中筋原性酵素(クレアチンキナーゼ又はアルドラーゼ)の上昇
  5. 筋炎を示す筋電図変化
  6. 骨破壊を伴わない関節炎又は関節痛
  7. 全身性炎症所見(発熱、CRP 上昇、又は赤沈亢進)
  8. 抗アミノアシル tRNA 合成酵素抗体(抗 Jo-1 抗体を含む)陽性
  9. 筋生検で筋炎の病理所見:筋線維の変性及び細胞浸潤
2. 診断基準
  • 皮膚筋炎 : (1)の皮膚症状の(a)~(c)の1項目以上を満たし、かつ経過中に(2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの。
    なお、皮膚症状のみで皮膚病理学的所見が皮膚筋炎に合致するものは無筋症性皮膚筋炎として皮膚筋炎に含む。
  • 多発性筋炎 : (2)~(9)の項目中4項目以上を満たすもの
3. 鑑別診断を要する疾患
  • 感染による筋炎
  • 薬剤誘発性ミオパチー
  • 内分泌異常に基づくミオパチー
  • 筋ジストロフィーその他の先天性筋疾患
  • 湿疹・皮膚炎群を含むその他の皮膚疾患

発疹を認めずに皮膚筋炎と同様に筋力の低下、筋肉痛が主な症状でみられる病気もあり、多発性筋炎と呼ばれます。
同じように筋力低下が著しく、急速に日常生活の動作が低下してゆきます。

抗ARS抗体症候群 抗ARS抗体症候群

血液検査ではCPKや炎症反応(CRP)の上昇を伴います。
ときに、重症の間質性肺炎を合併することがあります。
筋肉の症状が類似しているため、皮膚筋炎と多発筋炎は皮膚筋炎/多発筋炎などと併記して書かれることがありますが、異なった病態でおこる違う病気であることがわかっています。
しかし、間質性肺炎や嚥下障害、心筋障害、肺高血圧の合併などの合併症はどちらでもみられます。
激しい間質性肺炎は予後を左右する重大な合併症です。
倦怠感や疲労感が強く、短期間で体重が減少してゆきます。
筋力の低下は筋肉の病気以外に、神経の病気でもみられることがありますが、生理学的検査として筋電図検査という検査があり、この検査を行うことによって筋力の低下が筋肉に由来するものであるか、神経の病気に関連するものであるかの区別をすることができます。
いずれの病気も筋肉の炎症を直接みつけるために、最終的にはいずれの病気でも組織を採取して(筋生検)、組織を詳しく観察することが必要になります。
筋肉組織をとって検査すると、自身の白血球が筋肉の中や周囲の細かい血管の周囲に集まり、筋肉組織の細胞が破壊されたり、炎症を起こしている所見が見られ、診断の根拠となりますので、強く疑われた場合には生検検査が必要になります。
また、悪性腫瘍(癌など)が合併していることもあるため、これらの病気が見つかった場合、悪性腫瘍を精密検査で調べる必要があります。

最近では、抗ARS抗体(アミノアシルtRNA合成酵素というタンパク質に対する抗体)という抗体が注目されています。
細胞に含まれる成分に対するこの抗体は、皮膚筋炎や多発性筋炎などで陽性となる自己抗体が一部に含まれています。
この抗体が陽性でみられる患者さんでは、手指の皮膚が剥けるような発疹が見られたり、間質性肺炎を高率に合併することが知られています。
筋肉の症状は必ずしも出現しないこともあり、この抗体が見られた場合には全身の合併症を調べる必要があります。

治療の中心となるのはコルチコステロイドであり、病状によってはシクロホスファミドなどの免疫抑制薬を使用することがあります。
また、献血で集められた血液から、免疫グロブリンという血液中の抗体部分を抽出して作られた製剤(免疫グロブリン製剤)を点滴して治療することがあります。

壊死性筋炎

多発性筋炎や皮膚筋炎と同じような筋肉の症状と、発疹を認める病気で血液検査でもやはりCPKや炎症反応がかなり上昇する病気があります。
ただし、筋肉の病理組織検査では皮膚筋炎や多発筋炎と異なる(部分的な筋繊維の萎縮が強く、炎症が強くない)病気で、血液中に特徴的な自己抗体が見られる病気の一群があり、壊死性筋炎(Necrotizing autoimmune myopathyでNAM)と呼ばれます。
これらの病気では抗SRP抗体、抗HMGCR抗体といった抗体がみられます。
コルチコステロイドや免疫抑制薬、大量γ-グロブリン製剤の投与などが行われますが、難治の場合も多く長期間にわたる治療が必要になります。

4)全身性硬化症(強皮症)

指先を中心に一過性の血行障害が起きるレイノー症状(Raynaud現象)が特徴的な膠原病で、自己抗体として抗Scl-70抗体や抗セントロメア抗体という抗核抗体が血液検査でみつかります。
手指はソーセージのように腫れ、しもやけの様な発疹を伴ったり、関節が痛む場合もあります。
腫れた皮膚は徐々に硬くなり、指で皮膚をつまみ上げることが難しくなることもあります。
皮膚の硬化(固くなること)は手指、手背(手の甲)、前腕、胸部、顔面などまで拡大することもあります。
手指の先端に皮膚の硬化と血行障害のために潰瘍が形成されることもあります。
これらは皮膚の下の組織の炎症が原因であり、手首を超えて全身に皮膚硬化が拡大する全身型と手首から先の皮膚にのみ硬化が見られる限局型のタイプがあります。

診断基準

全身性強皮症・診断基準 2010年

大基準
手指あるいは足趾を越える皮膚硬化*
小基準
  1. 手指あるいは足趾に限局する皮膚硬化
  2. 手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮**
  3. 両側性肺基底部の線維症
  4. 抗Scl-70 (トポイソメラーゼI)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
診断のカテゴリー
大基準、あるいは小基準1)かつ2)~4)の1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断
  • * 限局性強皮症を除外する。
  • ** 手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く。

皮膚以外の症状で深刻なものは、間質性肺炎と肺線維症です。
呼吸のために充分に肺を広げることが難しくなり、運動時の息切れや安静時でも低酸素となることがあります。
また、進行すると消化不良や難治性の下痢を来すことがあり、これは消化管の粘膜に病気が拡大することが原因と考えられています。
肺の血管に病変が波及して肺高血圧症を合併することもあります。

他の膠原病では治療にコルチコステロイが使用されることが多いですが、この疾患ではあまり効果がなく、却って病状が悪化したり腎臓の血管に病気が起こり腎不全や脳卒中を起こすような異常な高血圧(腎クリーゼといいます)を来すことがあるため、一般には使われません。
最近では、進行する皮膚硬化に対して、シクロホスファミドなどの免疫抑制薬やリツキシマブなどの生物学的製剤が使用され、有効なデータも報告されてきています。
潰瘍を作るような皮膚の血行障害に対しては、ビタミンE、プロスタグランディン製剤(内服・注射)、ボセンタンという血管拡張薬、抗血小板薬などが使われます。

5)血管炎症候群

血管は心臓から始まり、全身に分布する臓器ですが、この血管の壁に自己免疫による炎症を引き起こすのが全身性血管炎と呼ばれる一群の症候群(症状のあつまりで規定された病気)です。
血管には様々な種類があり、心臓から始まる大動脈と呼ばれる血管の本幹はかなり太く、そこから枝分かれしながら徐々に細くなり、最終的には顕微鏡で見ないとわからないような細い毛細血管となります。
毛細血管から先は、今度は徐々に合流しながら太さを増して、最終的には上大静脈・下大静脈という静脈の本幹になって心臓に戻ります。
血管炎にはいくつも種類があり、血管の直径や場所によって症状が大きく異なります。
以下、いくつかの血管炎について、大まかに説明いたします。

1. 高安動脈炎

心臓から始まる大動脈の本幹とそこから1−2回分かれたところまでの太い血管に炎症が起こる病気です。
発熱や倦怠感などの症状が一般的で、初期には病気が体のどの場所に起きているのかはっきりしません。
血管の炎症は通常パッチ上に大動脈とその主要な分岐血管に起こり、時間がたってくると、動脈の直径が狭くなる(狭窄)ことによる症状が現れてくることがあります。
大動脈は心臓から出ると胸部で下に向かって大きくUターンします(私は、関越道から東京方面に向かい、圏央道へ入る際に、圏央道の八王子方面へと合流するところがありますが、そこのカーブがよく似ていると思います)。
このUターンの部分からは上方に向かって3本の太い血管が分かれます。そのあたりに血管炎が生じると、徐々に血管の直径が細くなり血行障害を認めるようになります。
左右の血圧の差が大きくなったり、腕を使った際に頭にゆく血流が減ってくらくらと目眩がしたりします。
もともと高安病は高安先生という眼科の先生が眼底の血管に異常がある患者さんを見つけたことから始まった病気なので、眼球の血管にも異常を起こし、視力の障害を訴える患者さんもいます。

診断基準

Definiteを対象とする。

A.症状
  1. 全身症状:発熱、全身倦怠感、易疲労感、リンパ節腫脹(頸部)、若年者の高血圧 (140/90mmHg以上)
  2. 疼痛:頸動脈痛(carotidynia)、胸痛、背部痛、腰痛、肩痛、上肢痛、下肢痛
  3. 眼症状:一過性又は持続性の視力障害、眼前明暗感、失明、眼底変化(低血圧眼底、高血圧眼底)
  4. 頭頸部症状:頭痛、歯痛、顎跛行※a、めまい、難聴、耳鳴、失神発作、頸部血管雑音、片麻痺
  5. 上肢症状:しびれ感、冷感、拳上困難、上肢跛行※b、上肢の脈拍及び血圧異常(橈骨動脈の脈拍減弱、消失、10mmHg以上の血圧左右差)、脈圧の亢進(大動脈弁閉鎖不全症と関連する)
  6. 下肢症状:しびれ感、冷感、脱力、下肢跛行、下肢の脈拍及び血圧異常(下肢動脈の拍動亢進あるいは減弱、血圧低下、上下肢血圧差※c)
  7. 胸部症状:息切れ、動悸、呼吸困難、血痰、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈、心雑音、背部血管雑音
  8. 腹部症状:腹部血管雑音、潰瘍性大腸炎の合併
  9. 皮膚症状:結節性紅斑
  • 咀嚼により痛みが生じるため間欠的に咀嚼すること
  • 上肢労作により痛みや脱力感が生じるため間欠的に労作すること
  • 「下肢が上肢より10~30mmHg高い」から外れる場合
B.検査所見
  1. 画像検査所見:大動脈とその第一次分枝※aの両方あるいはどちらかに検出される、多発性※bまたはびまん性の肥厚性病変※c、狭窄性病変(閉塞を含む)※dあるいは拡張性病変(瘤を含む)※d の所見
  • 大動脈とその一次分枝とは、大動脈(上行、弓行、胸部下行、腹部下行)、大動脈の一次分枝(冠動脈を含む)、肺動脈、冠動脈
  • 多発性とは、上記の2つ以上の動脈または部位、大動脈の2区域以上のいずれかである。
  • 肥厚性病変は、超音波(総頸動脈のマカロニサイン)、造影CT、造影MRI(動脈壁全周性の造影効果)、PET-CT(動脈壁全周性のFDG取り組み)で描出される。
  • 狭窄性病変、拡張性病変は、胸部X線(下行大動脈の波状化)、CT angiography、MR angiography、心臓超音波検査(大動脈弁閉鎖不全)、血管造影で描出される。上行大動脈は拡張し、大動脈弁閉鎖不全を伴いやすい。慢性期には、CTにて動脈壁の全周性石炭化、CT angiography、 MR angiographyにて側副血行路の発達が描出される。
    画像診断上の注意点:造影CTは造影後期相で撮影。CT angiographyは造影早期相で撮影、三次元画像処理を実施。血管造影は通常、血管内治療、冠動脈・左室造影などを同時目的とする際に行う。
C.鑑別診断
  • 動脈硬化症
  • 先天性血管異常
  • 炎症性腹部大動脈瘤
  • 感染性動脈瘤
  • 梅毒性中膜炎
  • 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)
  • 血管型ベーチェット病
  • IgG4関連疾患

診断のカテゴリー

Definite: Aのうち1項目以上+ Bのいずれかを認め、Cを除外したもの。

病気に特徴的な血液検査の異常はなく、単に炎症反応が高くなるだけなので、詳しく調べなければ診断に至ることが難しい病気です。
最近ではPET(ポジトロンCT)という診断機器を使って、血管の炎症がどこにあるのか、病気がおさまっているのか再発しているのかがある程度把握できるようになってきました。
治療はコルチコステロイドを用いて行います。最近では病気が抑えられないときや、再発を繰り返す場合には、関節リウマチで用いられる生物学的製剤、トシリズマブ(アクテムラ®)が保険適応となりました。

大動脈炎症候群では、ときどき潰瘍性大腸炎という腸管の病気を合併する患者さんもいますので、下血や腹部の症状がみられる場合には、大腸の内視鏡などの検査を行う必要があります。

2. 巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)

以前、側頭動脈炎というこめかみのあたりから始まる、頭の表面の血管に炎症を起こす病気と定義されていましたが、それ以外にも眼動脈や頸動脈、そのもっと深くにある大動脈に近い胸部の血管にも炎症を起こすことが知られ、名称が変更されました。
巨細胞とは、動脈の組織に白血球が集合してできた大きな細胞がいるためです。
激しい頭痛を起こすことが主症状で、頭の表面の血管で脈を触れなくなることがあります。
目に向かう眼動脈にも炎症を起こすことがあり、急激な視力障害から失明に至ることもありますので、注意が必要です。
この病気は、リウマチ性疾患のところで述べたリウマチ性多発筋痛症という病気に合併してでることも知られており、リウマチ性多発筋痛症の人では必ず激しい頭痛や視力の異常がないか気にすることが重要です。

診断基準

巨細胞性動脈炎の分類基準(1990年、アメリカリウマチ学会による。)

1. 発症年齢が50歳以上
臨床症状や検査所見の発現が50歳以上
2. 新たに起こった頭痛
新たに出現した又は新たな様相の頭部に限局した頭痛
3. 側頭動脈の異常
側頭動脈の圧痛又は動脈硬化に起因しない側頭動脈の拍動の低下
4. 赤沈の亢進
赤沈が50mm/時間以上
5. 動脈生検組織の異常
単核球細胞の浸潤又は肉芽腫を伴う炎症があり多核巨細胞を伴う。

分類目的には、5項目中少なくても3項目を満たす必要がある。(感度93%、特異度91%)

治療にはコルチコステロイドを用いますが、高安病と同様に最近ではトシリズマブ(アクテムラ®)を使用することができるようになりました。

3. 顕微鏡的多発血管炎(MPA)

血液中に好中球という白血球の成分に対する抗体が出る病気で、大動脈よりかなり細い血管(顕微鏡で見ないとわからない細い血管)に炎症が起こる病気です。腎臓の糸球体にも炎症を起こし、急速進行性腎炎という数週間で末期腎不全に至る、進行する速度がとても速い腎臓病を合併します。
また、肺の小さな血管にも炎症を起こし、肺出血や肺の結合組織の炎症による間質性肺炎を合併することがあります。
肺と腎臓を同時に冒すことがあるため、肺腎症候群という名称でも知られています。
また、比較的太い神経の脇を通る血管にも炎症を起こすため、体の一カ所が急にしびれたり動かなくなる症状がみられることがあります。
体の複数の部位に多発することもありますが、脳卒中の患者さんのように体の半分などに麻痺が出現するのとはことなり、足首が持ち上がらずだらりとたれてしまう(下垂足)などの症状が見られます。
これは、腓骨(ひこつ)神経と呼ばれる神経の完全麻痺が原因となっており、このように1本の神経ごとに麻痺が生じるのが特徴です(多発単神経炎といいます)。
また、全身の血管に炎症をおこすことがあります。
この病気では、血液検査で激しい炎症反応とともにANCA(アンカ)と呼ばれる白血球の細胞成分に対する抗体が見られます。
この病気と、次に述べる肉芽腫性多発血管炎と好酸球性多発血管炎性肉芽腫症ではいずれもANCAの出現が見られることが多いため、3つを総称してANCA関連血管炎と呼びます。

診断基準

Definite、Probableを対象とする。
【主要項目】

(1) 主要症候
  1. 急速進行性糸球体腎炎
  2. 肺出血又は間質性肺炎
  3. 腎・肺以外の臓器症状:紫斑、皮下出血、消化管出血、多発性単神経炎など
(2) 主要組織所見
  • 細動脈
  • 毛細血管
  • 後毛細血管細静脈の壊死、血管周囲の炎症性細胞浸潤
(3) 主要検査所見
  1. MPO-ANCA 陽性
  2. CRP 陽性
  3. 蛋白尿・血尿、BUN、血清クレアチニン値の上昇
  4. 胸部X線所見:浸潤陰影(肺胞出血)、間質性肺炎
(4) 診断のカテゴリー
  1. Definite
    1. 主要症候の2項目以上を満たし、組織所見が陽性の例
    2. 主要症候の①及び②を含め2項目以上を満たし、MPO-ANCAが陽性の例
  2. Probable
    1. 主要症候の3項目を満たす例
    2. 主要症候の1項目とMPO-ANCA陽性の例
(5) 鑑別診断
  1. 結節性多発動脈炎
  2. 多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
  3. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎/チャーグ・ストラウス症候群)
  4. 川崎動脈炎
  5. 膠原病(全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など)
  6. IgA血管炎(旧称:紫斑病血管炎)

【参考事項】

  1. 主要症候の出現する1~2週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
  2. 主要症候①、②は約半数例で同時に、その他の例ではいずれか一方が先行する。
  3. 多くの例でMPO-ANCAの力価は疾患活動性と平行して変動する。
  4. 治療を早期に中止すると、再発する例がある。
  5. 除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。

治療には大量のコルチコステロイドを用います。
また、重症例ではシクロホスファミドやリツキシマブを点滴で併用することがあります。
治療法は患者さんの病状や全身の状態によって変わりますが、少なくとも2-4週間の入院治療で寛解導入を行います。

4. 多発性血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)

顕微鏡的多発血管炎と同様のサイズ、分布の血管に炎症を来す疾患です。
症状は顕微鏡的多発血管炎と類似していますが、加えて、多くの場合副鼻腔炎や鼻の粘膜に肉芽腫という白血球が集まってできる小さな腫瘍が先だって見られます。
また、進行すると肺に空洞や間質性肺炎を認めるようになります。
腎臓でも急速進行性糸球体腎炎を来します。
治療法は顕微鏡的多発血管炎と同様です。

診断基準

Definite、Probableを対象とする。

1. 主要症状
  1. 上気道(E)の症状
    E:鼻(膿性鼻漏、出血、鞍鼻)、眼(眼痛、視力低下、眼球突出)、耳(中耳炎)、口腔・咽頭痛(潰瘍、嗄声、気道閉塞)
  2. 肺(L)の症状
    L:血痰、咳嗽、呼吸困難
  3. 腎(K)の症状
    血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧
  4. 血管炎による症状
    1. 全身症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6か月以内に6㎏以上)
    2. 臓器症状:紫斑、多関節炎(痛)、上強膜炎、多発性単神経炎、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、消化管出血(吐血・下血)、胸膜炎
2. 主要組織所見
  1. E、L、Kの巨細胞を伴う壊死性肉芽腫性炎
  2. 免疫グロブリン沈着を伴わない壊死性半月体形成腎炎
  3. 小・細動脈の壊死性肉芽腫性血管炎
3. 主要検査所見
Proteinase 3-ANCA(PR3-ANCA)(蛍光抗体法でcytoplasmic pattern,C-ANCA)が高率に陽性を示す。
4. 診断のカテゴリー
  1. Definite
    1. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)のそれぞれ1臓器症状を含め主要症状の3項目以上を示す例
    2. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の2項目以上及び、組織所見①、②、③の1項目以上を示す例
    3. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状の1項目以上と組織所見①、②、③の1項目以上
      及びC(PR-3) ANCA 陽性の例
  2. Probable
    1. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のうち2項目以上の症状を示す例
    2. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のいずれか1項目及び、組織所見①、②、③の1項目を示す例
    3. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)、血管炎による主要症状のいずれか1項目とC(PR-3)ANCA 陽性を示す例
5. 参考となる検査所見
  1. 白血球、CRPの上昇
  2. BUN、血清クレアチニンの上昇
6. 識別診断
  1. E、Lの他の原因による肉芽腫性疾患(サルコイドーシスなど)
  2. 他の血管炎症候群 (顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・ストラウス(Churg-Strauss)症候群)、結節性多発動脈炎など)
7. 参考事項
  1. 上気道(E)、肺(L)、腎(K)の全てが揃っている例は全身型、上気道(E)、下気道(L)のうち単数又は2つの臓器にとどまる例を限局型と呼ぶ。
  2. 全身型はE、L、Kの順に症状が発現することが多い。
  3. 発症後しばらくすると、E、Lの病変に黄色ぶどう球菌を主とする感染症を合併しやすい。
  4. E、Lの肉芽腫による占拠性病変の診断にCT、MRI、シンチ検査が有用である。
  5. PR3- ANCAの力価は疾患活動性と平行しやすい。MPO-ANCA陽性を認める例もある。
5. 好酸球性多発性血管炎性肉芽腫症(チャーグ・ストラウス症候群EGPA)

アレルギーに関係する好酸球という白血球が集まって、血管炎と肉芽腫を合併する疾患です。
喘息やひどいアレルギーなどが先立って見られることが多く、顕微鏡的多発性血管炎のような末梢神経の障害がみられる頻度が高いです。
他の二つのANCA関連血管炎と比べ、ANCAがみられない患者さんも半数ほどみられます。
治療法は顕微鏡的多発血管炎、多発血管炎性肉芽腫症と同様ですが、コルチコステロイドに対する反応はより良好な傾向があります。

診断基準

Definite、Probableを対象とする。

1. 主要臨床所見
  1. 気管支喘息あるいはアレルギー性鼻炎
  2. 好酸球増加
  3. 血管炎による症状:発熱(38℃以上、2週間以上)、体重減少(6か月以内に6kg以上)、多発性単神経炎、消化管出血、多関節痛(炎)、筋肉痛(筋力低下)、紫斑のいずれか1つ以上
2. 臨床経過の特徴
主要臨床所見(1)、(2)が先行し、(3)が発症する。
3. 主要組織所見
  1. 周囲組織に著明な好酸球浸潤を伴う細小血管の肉芽腫性又はフィブリノイド壊死性血管炎の存在
  2. 血管外肉芽腫の存在
4. 診断のカテゴリー
  1. Definite
    1. 1.主要臨床所見3項目を満たし、3.主要組織所見の1項目を満たす場合
    2. 1.主要臨床所見3項目を満たし、2.臨床経過の特徴を示した場合
  2. Probable
    1. 1.主要臨床所見1項目及び3.主要組織所見の1項目を満たす場合
    2. 1.主要臨床所見を3項目満たすが、2.臨床経過の特徴を示さない場合
5. 参考となる所見
  1. 白血球増加(≧1万/µL)
  2. 血小板増加(≧40万/µL)
  3. 血清IgE増加(≧600 U/mL)
  4. MPO-ANCA陽性
  5. リウマトイド因子陽性
  6. 肺浸潤陰影

ANCA(アンカ)について

ANCAは白血球の一種である好中球という細胞の細胞質という部分に対する抗体です。
この好中球は、細胞質の中に顆粒を持っており、顆粒の中のどの成分に反応するかによって、さらに大きく二つのタイプに分類されます。
顆粒の中のミエロペルオキシダーゼ(MPO)という成分に反応する抗体である場合をMPO-ANCA(P-ANCA)、プロテアーゼ3という酵素に反応する抗体はPR3-ANCA(C-ANCA)といいます。
MPO-ANCAは顕微鏡的多発血管炎や好酸球性多発血管炎性肉芽腫症でみられることが多く、PR3-ANCAは多発血管炎性肉芽腫症でみられることが多くなっていますが、他の膠原病のように1:1の対応になっているわけではありません。

6. (古典的)結節性多発動脈炎

ANCA関連血管炎と高安動脈炎との間の中型動脈に炎症を起こす血管炎です。
もともと血管炎自体はそれほど頻度の高い疾患ではありませんが、この血管炎はさらに希です。
中型の動脈には、腎臓の中の動脈(葉間動脈)や精巣の動脈、冠動脈、腹部の腸管にむかう動脈なども含まれますが、ほかの部位の血管にも炎症が起こります。
ANCAのような疾患を特徴づける特異的なマーカーは無く、診断に苦慮する場合も少なくありません。
発熱や炎症反応、全身倦怠感などの症状がみられ、ある程度進行すると、血管炎のある動脈の炎症部位より先に、虚血(血液が充分供給されないこと)の症状を認めることがあります。
以前はB型肝炎に合併して類似の血管炎を起こす患者さんもいらっしゃいましたが、現在は少なくなっています。

治療にはコルチコステロイドや免疫抑制薬が使われます。

診断基準

Definite、Probableを対象とする。
【主要項目】

(1) 主要症候
  1. 発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6か月以内に6kg以上)
  2. 高血圧
  3. 急速に進行する腎不全、腎梗塞
  4. 脳出血、脳梗塞
  5. 心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全
  6. 胸膜炎
  7. 消化管出血、腸閉塞
  8. 多発性単神経炎
  9. 皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑
  10. 多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下
(2) 組織所見
中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在
(3) 血管造影所見
腹部大動脈分枝(特に腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞
(4) 診断のカテゴリー
  1. Definite
    主要症候2項目以上と組織所見のある例
  2. Probable
    1. 主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例
    2. 主要症候のうち①を含む6項目以上存在する例
(5) 参考となる検査所見
  1. 白血球増加(10,000/µL以上)
  2. 血小板増加(400,000/µL以上)
  3. 赤沈亢進
  4. CRP強陽性
(6) 鑑別診断
  1. 顕微鏡的多発血管炎
  2. 多発血管炎性肉芽腫症 (旧称:ウェゲナー肉芽腫症)
  3. 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)
  4. 川崎病動脈炎
  5. 膠原病(全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など)
  6. IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)

【参考事項】

  1. 組織学的にI期変性期、II期急性炎症期、III期肉芽期、IV期瘢痕期の4つの病期に分類される。
  2. 臨床的にI、II病期は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。
  3. 除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。
7. IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)
IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)

血液中に含まれるIgAという種類の抗体が血管の壁に沈着して炎症をおこす病気です。
血尿、蛋白尿、ときにネフローゼ症候群をおこす腎炎と、皮膚に盛り上がる痣(あざ)の様な発疹が多数見られます。
発疹は全身にみられますが、特に膝から下の向こうずねにあらわれることが多いです。
さらに、腹部の激痛や関節痛を来すことがあります。
多くの場合、扁桃楊などの上気道を中心とした感染症が先行し、上気道炎の発生から2週間程度してから症状が現れます。
腎炎の重症度によって、治療方法が決まるため、腎臓の組織を生検で調べてから、治療を行うことが多いです。
治療の中心となるのはコルチコステロイドです。

IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)
8.その他の血管炎

血管炎にはこれらの他にも数多くの種類があり、国際的な研究グループが主体となって分類を発表しています。
現在、世界的に使用されているのは、このグループがノースカロライナ州のチャペルヒルというところで行われた会議で発表された分類です。

6)混合性結合織病(MCTD)

全身性エリテマトーデスと多発性筋炎、皮膚筋炎と全身性硬化症のそれぞれの症状が見られる膠原病です。
血液中に抗RNP抗体という自己抗体が見られます。

手指は全身性硬化症のようにソーセージのように腫れたり、レイノー症状を示し、筋力低下や筋痛、加えてエリテマトーデスの様な発疹がみられることがあります。
内臓の合併症として間質性肺炎や、肺高血圧症などの合併が見られます。
この疾患も診断基準が示されており、これを使って診断されますが、発症からの時期などに応じて、主に見られる症状が異なってくることがあります。

治療にはコルチコステロイドや免疫抑制薬を用います。

膠原病類縁疾患

1)ベーチェット病・スウイート病

ベーチェット病・スウイート病

口の中に大きく粘膜がえぐれたような潰瘍ができ、また陰部にも皮膚がえぐれたような潰瘍ができる病気です。
また、腱の付着部を中心に関節痛が見られたり、急な発熱を来すことがあります。
毛嚢炎という皮膚のひどいニキビのような発疹がみられることもあります。

目ではぶどう膜炎という炎症を起こし、放置すると失明の危険もあります。
また、特殊型として腸炎を起こして下血したり、脳炎を合併して神経や脳血管の症状がみられることもあります。
また、血管炎型では下肢の動脈や静脈にひどい炎症を起こして、発熱とともに炎症をおこした血管炎の周囲に痛みがでたり、虚血の症状がみられることもあります。

採血検査をすると、白血球の増加や炎症反応(CRP)の亢進を認め、HLAという白血球の血液型検査でB51というタイプがみられることが典型的です。
また、針反応といって、皮膚を針で刺したり傷がついたりするとそこに潰瘍ができる場合があり、診断の根拠となることがあります。

口内炎や陰部の潰瘍は本例に特徴的ですが、他の疾患で見られることもあり、また、常に両方揃って出てくるわけではありません。
陰部や口腔に炎症を起こすヘルペス感染症などと鑑別する必要があります。

診断基準

1. 概念
全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などにみられる症状や所見が混在し、血清中に抗U1-RNP抗体がみられる疾患である。
2. 共通所見
  1. レイノー現象
  2. 手指ないし手背の腫脹
3. 免疫学的所見
抗U1-RNP抗体陽性
4. 混合所見
  1. 全身性エリテマトーデス様所見
    1. 多関節炎
    2. リンパ節腫脹
    3. 顔面紅斑
    4. 心膜炎又は胸膜炎
    5. 白血球減少(4,000/µL以下)又は血小板減少(10 万/µL以下)
  2. 強皮症様所見
    1. 手指に限局した皮膚硬化
    2. 肺線維症、拘束性換気障害(%VC=80%以下)又は肺拡散能低下(%DLco=70%以下)
    3. 食道蠕動低下又は拡張
  3. 多発性筋炎様所見
    1. 筋力低下
    2. 筋原性酵素(CK 等)上昇
    3. 筋電図における筋原性異常所見
5. 診断のカテゴリー
  • 2の1所見以上が陽性
  • 3の所見が陽性
  • 4の(1)、(2)、(3)項のうち、2項以上につき、それぞれ1所見以上が陽性

以上の3項目を満たす場合を混合性結合組織病と診断する。

【付記】

  1. 抗U1-RNP抗体の検出は二重免疫拡散法あるいは酵素免疫測定法(ELISA)のいずれでもよい。
    ただし、二重免疫拡散法が陽性でELISAの結果と一致しない場合には、二重免疫拡散法を優先する。
  2. 以下の疾患標識抗体が陽性の場合は混合性結合組織病の診断は慎重に行う。
    1. 抗Sm抗体
    2. 高力価の抗二本鎖DNA抗体
    3. 抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)
    4. 抗Jo-1抗体
  3. 肺高血圧症を伴う抗U1RNP抗体陽性例は、臨床所見が十分にそろわなくとも、混合性結合組織病に分類される可能性が高い。

治療には重症度に応じてコルチコステロイドが用いられますが、他の免疫抑制薬が使われることもあります。
また、コルヒチンという薬は炎症は強い時期にも落ち着いた時期にも用いることがあり、炎症の発作を抑えるのに有効です。
最近、アプレミラスト(オテズラ®)というホスホジエステラーゼ4(PDE4)という酵素を阻害する薬が保険適応となり、使用されています。

2)抗リン脂質抗体症候群

血液が固まるときには、血小板が働きますが、同時に血液中に溶けているタンパク質が作用して止血を助けます。このタンパク質には数多く種類がありますが、総称して凝固因子と呼ばれています。
この凝固因子に対して作用する自己抗体ができてしまうのが抗リン脂質抗体症候群という病気です。
抗体によって凝固因子が活性化することによって、血管の中で血の塊(血栓)ができてしまうというのがこの病気の特徴です。
しばしば、習慣性流産(何度も流産してしまう)という症状で婦人科で発見されることがあります。
また、血栓のできる部位によって、若くして脳血栓症や心筋梗塞などの症状、下肢の血栓症などを起こすこともあります。

この凝固因子に対する抗体があることによって、梅毒検査で陽性を示すことがありますが、梅毒の感染とは無関係です。
この現象を生物学的擬陽性とよび、逆に梅毒の検査でこの病気が見つかることもあります。
この病気だけ単独でもつ患者さんもいますが、全身性エリテマトーデスを中心に他の膠原病に合併してみられることもありますので、検査をする必要があります。

治療としては、基本的には抗血小板薬、抗凝固薬など血栓を予防する治療が一般的に行われています。
中には重症例もみられ、免疫抑制療法を行うこともありますが、軽症例では自然に軽快し、抗体が消失することもありますし、抗体が陽性なだけで無症状なこともあります。

3)サルコイドーシス

結核では結核菌を取り囲むように白血球が集まり、肉芽腫という小さな塊を肺や他の臓器に作ることが知られていますが、この病気では結核菌などの感染症が無いにもかかわらず、同様の肉芽腫ができてしまう病気です。
症状は倦怠感や発熱などが主ですが、肉芽腫ができる場所によって症状が異なります。
最もよく知られているのは、胸部のレントゲンで気管支の周りのリンパ腺が腫れるものです。このレントゲン所見で診断されることもあります。
また、肺の中にいくつもの影が現れることもあります。
腎臓の中に白血球の塊ができると、腎臓の機能が悪化することもあります。
ほかに関節痛や目の炎症(ぶどう膜炎)を起こすこともあり、患者さんにもよりますが、全身に症状が現れる可能性があります。
また、時々神経症状として、脳炎や手足のひどいしびれや麻痺をおこすことがあります。
検査結果では血液の中でカルシウムが増加したり、ビタミンDが上昇すること、ACEやリゾチームという酵素が増えることがあり、こちらは病気の勢いと相関することがあるため、症状が落ち着いているときには正常値のこともあります。

診断基準

組織診断群と臨床診断群を指定難病の対象とする。

A. 臨床症状
呼吸器、眼、皮膚、心臓、神経を主とする全身のいずれかの臓器の臨床症状あるいは臓器非特異的全身症状
  • 臓器非特異的全身症状:慢性疲労、慢性疼痛、息切れ、発熱、寝汗、体重減少
  • 呼吸器:胸部異常陰影、 咳、痰、息切れ
  • :霧視、飛蚊症、視力低下
  • 神経:脳神経麻痺、頭痛、意識障害、運動麻痺、失調、感覚障害、排尿障害、尿崩症
  • 心臓:不整脈、心電図異常、動悸、息切れ、意識消失、突然死
  • 皮膚:皮疹(結節型、局面型、皮下型、びまん浸潤型、苔癬様型、結節性紅斑様型、魚鱗癬型、瘢痕浸潤、結節性紅斑)
  • 胸郭外リンパ節:リンパ節腫大
  • 筋肉:筋力低下、筋痛、筋肉腫瘤
  • :骨痛、骨折
  • 上気道:鼻閉、扁桃腫大、咽頭腫瘤、嗄声、上気道狭窄、副鼻腔炎
  • 外分泌腺:涙腺腫大、唾液腺腫大、ドライアイ、口腔内乾燥
  • 関節:関節痛、関節変形、関節腫大
  • 代謝:高カルシウム血症、尿路結石
  • 腎臓:腎機能障害、腎臓腫瘤
  • 消化管:食欲不振、腹部膨満、消化管ポリープ
  • 肝臓:肝機能障害、肝腫大
  • 脾臓:脾機能亢進症状(血球減少症)、脾腫
  • 膵臓:膵腫瘤
  • 胆道病変:胆道内腫瘤
  • 骨髄:血球減少症
  • 乳房:腫瘤形成
  • 甲状腺:甲状腺機能亢進、甲状腺機能低下、甲状腺腫
  • 生殖器:不妊症、生殖器腫瘤
B. 特徴的検査所見
  1. 両側肺門縦隔リンパ節腫脹(Bilateral hilar-mediastinal lymphadenopathy:BHL)
  2. 血清アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性高値または血清リゾチーム値高値
  3. 血清可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)高値
  4. 67Ga シンチグラフィ又は18F-FDG/PETにおける著明な集積所見
  5. 気管支肺胞洗浄液のリンパ球比率上昇又はCD4/CD8 比の上昇
  • 付記1. 両側肺門縦隔リンパ節腫脹とは両側肺門リンパ節腫脹又は多発縦隔リンパ節腫脹である。
  • 付記2. リンパ球比率は非喫煙者20%、喫煙者10%、CD4/CD8は3.5を判断の目安とする。
C. 臓器病変を強く示唆する臨床所見
  1. 呼吸器病変を強く示唆する臨床所見

    画像所見にて、①又は②を満たす場合

    1. 両側肺門縦隔リンパ節腫脹(BHL)
    2. リンパ路である広義間質(気管支血管束周囲、小葉間隔壁、胸膜直下、小葉中心部)に沿った多発粒状影又は肥厚像
  2. 眼病変を強く示唆する臨床所見

    眼所見にて、下記6項目中2項目以上を満たす場合

    1. 肉芽腫性前部ぶどう膜炎(豚脂様角膜後面沈着物、虹彩結節)
    2. 隅角結節またはテント状周辺虹彩前癒着
    3. 塊状硝子体混濁(雪玉状、数珠状)
    4. 網膜血管周囲炎(主に静脈)及び血管周囲結節
    5. 多発するろう様網脈絡膜滲出斑又は光凝固斑様の網脈絡膜萎縮病巣
    6. 視神経乳頭肉芽腫又は脈絡膜肉芽腫
  3. 心臓病変を強く示唆する臨床所見

    各種検査所見にて、①又は②を満たす場合(表1参照)

    1. 主徴候5項目中2項目が陽性の場合
    2. 主徴候5項目中1項目が陽性で、副徴候3項目中2項目以上が陽性の場合

病気の勢いが強いときにはコルチコステロイドや免疫抑制薬を使います。

4)IgG4関連疾患(ミクリッツ症候群)

急激に耳下腺や顎下腺などの唾液腺や涙腺が腫れる病気で、組織を検査するとIgG4という抗体を表面にもつ白血球が異常に増殖して腫れた組織に集まっていることが発見される病気をミクリッツ症候群と呼びます。
唾液腺以外にも同じように増殖した白血球が膵臓に集まることもあり、こちらは自己免疫性膵炎という名称で呼ばれていて、膵炎同様の症状を認めます。
唾液腺や膵臓以外にも、腎臓や脳下垂体、甲状腺など多数の臓器に集まることがあり、それぞれの臓器障害を来すことがあり、共通した特徴からIgG4関連疾患として総称されています。
血液検査でも炎症反応の増加とそれぞれ病変のある臓器の異常値が見られ、血液検査ではIgG4という抗体が増加しています。
コルチコステロイドで治療を行うと比較的反応良く改善しますが、再発も多いため治療薬をなかなか減量・中止することができないこともあり、免疫抑制薬を併用することがあります。

5)結節性紅斑

複数の痣(あざ)のような発疹が上下肢にみられる病気です。痣の部位には痛みがあり、触ると熱をもっているような感覚(熱感)があります。
これは、皮下組織や皮下脂肪の血管に起こった炎症を反映しています。
結節性紅斑では、単独でも関節痛や発熱などの全身症状が出現することもありますが、他の膠原病や自己免疫疾患でみられることがあるため、詳しい検査が必要です。

6)好酸球増多症

血液検査で好酸球というアレルギーを起こす種類の白血球が増加して起こる病気です。
パルボウイルスというりんご病の原因になるウイルスの感染後や、その他の感染症に伴って発生することもありますが、感染症がはっきりしない場合もあります。
喘息や肺炎、蕁麻疹、発熱などの症状が見られることがあり、多くは一過性で終わることがありますが、患者さんによってはなかなか改善しないこともあり、長期の治療をようすることもあります。
白血病などの血液疾患でも類似の症状を示すことがあるため、詳しい検査が必要です。

その他難病・稀少疾患

1)家族性地中海熱

体内に侵入した病原体を攻撃して排除するのが、免疫システムの働きですが、ときに暴走して本来病原体ではない体の成分などに反応して発熱や炎症反応の増加が見られる場合があります。
免疫システムは白血球がその働きを担っており、その働きには細菌を食べたること(貪食)や、炎症を起こすためのサイトカインの分泌、抗体を作ることなどが含まれます。
この免疫のはたらきには順番があり、最初は外から入ってきた物質を、まず白血球が食べてこれが病原であるかどうかを判定します。
この判定で病原体であるとなると、その後の一連の免疫反応が始まります。
この初期反応(自然免疫)の働きが過剰な場合、病原体が無いのに発熱や炎症反応の上昇を繰り返すことになります。
このような免疫の異常を来す疾患はいくつかしられており、自己炎症症候群と総称されています。
家族性地中海熱はこうしたことが原因で起こる代表的な周期的な発熱性疾患です。
患者さんの数は少なく、「地中海」という名称がついていますが、日本にも患者さんがいます。
発熱の前後で腹痛を生じることがあります。
遺伝子診断をすると、自然免疫にかかわる特定の遺伝子の変異を認めます。
家族性とは遺伝性とイコールな表現で、素因は遺伝されますが、身内に同様な症状がみられない場合もあります。
この病気の特徴は、発熱や炎症が間欠的であり、発熱していないときにはほぼ無症状であるという点です。
しかし、繰り返す炎症のため炎症に関係して作られるタンパクが、全身の臓器に徐々に沈着し、続発性アミロイドーシスという病気を起こすことが知られています。
同様の自己炎症疾患にクリオピリン関連周期発熱症、ブラウ症候群などがあります。

これらの疾患群の治療にはコルヒチンが使われますが、コルチコステロイドを使用することもあります。
改善しない場合にはヒト型抗ヒトIL-1βモノクローナル抗体[カナキムマブ(イラリス®)]というサイトカインを抑える生物製剤が使われることもあります。

2)遺伝性血管運動浮腫(クインケ浮腫)

この病気は唇などの粘膜や、体の一部が突然むくんで腫れ上がることが特徴の疾患です。
症状は発作的で、数時間から数日にわたって持続することがあり、数週から数日に1回、ストレスやあるいは、何の誘因も無く突然起こします。
遺伝性があり、ご家族や血縁の方に同様な症状を認めることがあります。
この病気は希であり、よくアレルギーや蕁麻疹と間違えられ、アレルギー薬などが処方されていることがありますが、そのような治療では改善しません。
この病気は補体という血液の中のタンパク質の制御に問題が生じておこる病気です。
ときに喉頭浮腫といって、気道の通り道が塞がり、窒息する危険があります。

通常はトラネキサム酸の内服で症状をおさえることができますが、発作が強い場合、乾燥濃縮ヒトC1-インアクチベータ製剤(ベリナート®)という点滴の製剤を使うことがあります。
また、喉頭浮腫の危険を予防するために、そのような症状が疑われた際には、選択的ブラジキニンB2受容体阻害薬[イカチバント(フィラジル®)]という注射薬を自己投与することが勧められています。

アレルギー疾患

当院では、自己免疫疾患、膠原病の治療を行っていますが、同様に免疫的な作用で生じる以下のような疾患にも対応しています。

  1. 蕁麻疹
  2. アレルギー性鼻炎・結膜炎
  3. 花粉症
  4. 気管支喘息
  5. 好酸球性食道炎
  6. アトピー性皮膚炎